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Case Study 症状別事例

2022.10.24

前十字靭帯損傷

前十字靭帯を断裂したバレエダンサーの競技復帰に向けたリハビリ

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。

今回紹介する論文は2022年8月に発表され、前十字靭帯断裂したバレエダンサーのリハビリにおける注意点について書かれています。

競技スポーツとは違って芸術的な要素が含まれるダンス動作では、よりバレエの動きに特化したリハビリが必要です。

記事の内容
  1. バレエの特性に合わせた前十字靭帯のリハビリとは?
  2. バレエ動作のリハビリで大切なポイント

この記事では、バレエという競技の特徴を考慮したリハビリの考え方と、バレエ動作のリハビリで注意すべき大切なポイントを紹介しています。

前十字靭帯を断裂したバレエなどのダンス競技を行っている人や、ダンス競技者のリハビリを担当する人にとって役に立つ内容となっています。

前十字靭帯損傷から安全に、より良い状態で競技に復帰するためにも、ぜひご覧ください。

前十字靭帯断裂後のリハビリを受けたバレリーナの体験談

イスタンブール国立劇場所属バレリーナ 内藤 亜仁さん
バレリーナとして国際的に活躍されている内藤さんは、練習中に前十字靭帯を断裂してしまいました。トルコで前十字靭帯再建手術を受けてリハビリを開始しましたが、一時帰国のタイミンングに合わせてLifelongで3ヶ月半の間、リハビリいただきました。当店ではバレエに特化したリハビリを受けていただき、まだジャンプも上手くできない状態から、最終的にはトウシューズを履いて1曲踊り切れるまで回復されました。
体験談を詳しく読む

バレエの競技特性

この論文はバレエダンサーに特化した前十字靭帯のリハビリについて書かれています。

そのため、他の競技やスポーツの選手と比べて、バレエ特有の競技特性と注意点が多く紹介されています。

前十字靭帯のリハビリを行う上で競技特性に合わせたリハビリをすることは、再発予防とパフォーマンス向上につながるのでぜひ頭に入れておきましょう。

足を外側に向けた状態のジャンプ

バレエ特有で、かつ前十字靭帯を断裂しやすい動きは”足が外を向いた状態で片足ジャンプからの着地”です。

つま先を大きく外側に向けた状態の姿勢や動作を、バレエの専門用語では”ターンアウト”と呼びます。

このターンアウトの状態で片足ジャンプをして着地する際に、膝関節が内側にねじれる力が加わりやすく、前十字靭帯への負荷が高まります。

バレエダンサーのリハビリでは、この足が外を向いた状態でのジャンプをするときに、できる限り膝の安定性を高めることが重要です。

美しさを必要とするスポーツ

バレエを競技として見たときに、最も求められる要素は”美しさ”です。

高くジャンプすることや、四肢を大きく動かすことは大切ですが、動作を美しく見せることを忘れてはいけません。

筋力や走力に比べて評価しづらい部分ではありますが、より美しい動作を行うための動き方や関節可動域を目指しましょう。

膝関節の完全伸展(過伸展)

バレエの動きを美しく見せるために大切なポイントが、膝の過伸展です。

一般的なスポーツ選手は、膝がまっすぐ伸ばせることを目標とします。(完全伸展=膝関節可動域0°)

しかし、バレエの選手には膝が少し曲がり過ぎるくらいの可動域が必要とされます。(過伸展=膝関節可動域-10〜20°)

前十字靭帯再建手術後は膝関節か硬くなってしまうため、この伸展という可動域を回復させるのが非常に苦労します。

バレエダンサーはより美しい立ち姿勢をとるために、他のスポーツ選手以上に膝の伸展可動域を広げることが大切です。

ランニングの必要性は低い

他のスポーツでは速く走ったり、長く走る必要があることが多いですが、バレエではランニング動作のリハビリに時間をかける必要はありません。

バレエでは走る動作はあまり行わないので、走るリハビリの代わりにジャンプ系のリハビリにより時間をかけることが望ましいです。

対戦相手や体の接触はない

バレエでは対戦相手が舞台にいることはなく、他選手と接触が起こることもありません。

前十字靭帯断裂の再発予防を考えたときに、他人との接触がないということは、再発リスクを大きく軽減させてくれます。

予想外の動きは起こらない

舞台でバレエを踊るときは、練習と全く同じ動きを行います。

そのため、演技中に予期しない動きが起こる可能性は極めて低いです。

バレエダンサーのリハビリでは、演目で行う動きを正確安全に行えるように練習しましょう。

リハビリで重要なポイント

今回の論文では、バレエ特有の競技特性だけでなく、バレエの動きに合わせたリハビリの大切さについても書かれています。

バレエ選手のリハビリでは基礎的な運動機能に加えて、バレエ動作に必要な運動機能の回復に重点をおいてリハビリを行いましょう。

片足の安定性

スタビリティーと呼ばれる運動機能ですが、片足立ちの姿勢をいかに安定させるかは、バレエダンサーにとって非常に大切です。

片足で真っ直ぐ綺麗に立つだけでなく、片足での踏み切り、着地、回転動作で、膝を安定させるための筋力をつけましょう。

片足立ちをしたときに膝が不安定だと、膝が内側に入りやすくなり前十字靭帯断裂の再発リスクも高くなってしまいます。

競技復帰するまでに、安定した片足スクワットができることを目標にするといいです。

片足バランス

安定した片足動作を行うためには、筋力に加えてバランス感覚の改善も必要です。

人間の関節には固有感覚受容器というセンサーのような機能があります。

このセンサーもトレーニングによって機能が向上し、身体のバランス能力を改善させることができるので、必ずリハビリに取り入れましょう。

床での片足バランスに加えて、バランスクッションを使ってのトレーニングも効果的です。

片足でのつま先タッチバランストレーニング

ふくらはぎと足部の強化

バレエは他のスポーツに比べてつま先立ちになる頻度が高いので、ふくらはぎと足部の筋力がより重要です。

また、ふくらはぎと足部の強化は、つま先立ちの状態で膝が崩れて前十字靭帯損傷を再発するリスクも減らすことにつながります。

ふくらはぎの筋トレ:カーフレイズ

足関節の可動域改善

足首の硬い人は膝関節に頼った動作になってしまうので、膝への負担が増加してしまいます。

十分な足首の関節可動域があると、必要以上に膝を使わなくても良くなるので、膝への負荷を軽減させることができます。

足首の可動域トレーニング:足首モビリゼーション

体幹と骨盤の安定性

身体の中心となる体幹と骨盤が安定することで、膝へのストレスを軽減させることができます。

体幹や骨盤の安定性が低いと上半身も不安定になり、下半身や膝への負担が増えてしまいます。

股関節と臀筋の強化

前十字靭帯に負担がかかりやすいジャンプ動作では、股関節をうまく使って衝撃を吸収することで、膝への衝撃を和らげることができます。

また、臀部の筋力が高いほど着地でバランスを崩しにくくなり、膝崩れを起こす危険性を下げることができます。

大臀筋の筋トレ:片足ブリッジ

まとめ

リハビリで考慮すべきバレエの競技特性

  •  ターンアウト姿勢でのジャンプ動作
  •  美しさを競い合う
  •  膝関節の完全伸展可動域
  •  走る動作は少ない
  •  対戦相手はいない
  •  体の接触は起こらない
  •  予期しない動きは起こらない

バレエ動作のリハビリで大切なポイント

  •  片足の安定性
  •  片足バランス
  •  ふくらはぎと足部の強化
  •  足関節の可動域改善
  •  体幹と骨盤の安定性
  •  股関節と臀筋の強化

前十字靭帯を断裂したバレエダンサーが競技復帰するためには、バレエの競技特性と動きに特化したリハビリを行うことが大切です。

基本的な身体の動きとは違った動きが多いバレエだからこそ、一つ一つの動きが安全、正確、そして美しく行えるように徹底したリハビリを行いましょう。

前十字靭帯の怪我に限らず、バレエダンサーのリハビリを考える上で重要なポイントをまとめた記事はこちらです。

前十字靭帯のリハビリについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。

他の前十字靭帯に関する医学論文は、こちらのページにまとめてあります。
>> 前十字靭帯に関する論文紹介まとめ

参考文献
Doolan-Roy , E. D., Reagan, K., Modisette, M., & Mattes, L. L. (2022). Return to Sport Following Anterior Cruciate Ligament Reconstruction In the Professional Female Ballet Dancer. Journal of Women’s Sports Medicine, 2(2), 83–94. https://doi.org/10.53646/jwsm.v2i2.26

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