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Case Study 症状別事例

2024.08.06

理学療法

バレリーナ・バレエダンサーに対するリハビリの考え方と実例紹介

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。

バレエの動きは日常動作や他のスポーツ動作に比べて、めて特殊と言えます。

足を外に開くターンアウト姿勢や膝を前に出して着地する片足ジャンプなど、バレエにしかない動作が非常に多く存在します。

そのため、バレエダンサーが怪我をして病院を訪ねても、「バレエの動きは知らない」と言われてしまうことが多々あるようです。

この記事は、スポーツ専門の理学療法士がプロバレリーナの前十字靭帯再建手術後のリハビリを担当した経緯から、バレエダンサーのリハビリで気をつけなければいけない点をまとめています。

怪我をしたバレエダンサーが自分のリハビリを受ける上で知っておいた方がいい知識ですので、リハビリ中やこれからリハビリを受けるバレエダンサーの方はぜひ目を通してみてください。

また、バレエダンサーの担当となった理学療法士がリハビリを考える際の参考にもなれば嬉しいです。

今回の記事では、イスタンブール国立劇場に所属する内藤亜仁さんが、前十字靭帯のリハビリを受けられた際に撮影した動画を使わせていただいています。

内藤さんのリハビリについてはこちらのページにまとめてありますので、ぜひご覧ください。

バレエの特徴

まずバレエ動作の特徴について知っておく必要があります。

一つ一つの動作が日常動作と大きく異なるので、リハビリを考える上で必ず押さえておきたいポイントです。

足を外に広げるターンアウト姿勢

バレエではターンアウトと呼ばれる足を外に開いて立つ姿勢が基本姿勢となります。

この姿勢で立つだけで膝関節と足関節には回旋ストレスがかかります。

膝を前に出すスクワット

一般的なスクワットはお尻を後ろに突き出しますが、バレエではお尻を後ろに突き出す動きはほとんどありません。

そのため、股関節をあまり使うことができないので、特に膝へのストレスが増えてしまいます。

膝関節の過伸展

バレエでは綺麗な動きを求められ、日常動作にはない膝関節の過伸展という動作を行う必要があります。

一般的に膝を真っ直ぐ伸ばす完全伸展だけでは不十分で、膝がしなるように伸ばすことが美しいと考えられています。

これは本来の関節可動域を超えた動作になるので、膝関節や特に前十字靭帯には大きな負荷となります。

バレエにはこのような特徴があるので、一般的なスポーツ選手に対するリハビリではなく、バレエ動作に特化したリハビリを行うことが大切です。

バレエのリハビリでの注意点

先に紹介したバレエの特徴からわかるように、バレエダンサーのリハビリでは特別な注意を払わなければいけないことが非常に多くあります。

足を外に開いた片足ジャンプ

バレエの動作で最も身体に負担がかかる動作が片足ジャンプです。

一般的なスポーツの片足ジャンプでは膝が正面を向きますが、バレエではつま先から膝まで外を向けたターンアウト姿勢で着地をしなければいけません。

また、グランパドゥシャのように空中で足を大きく広げるジャンプは、着地までの準備時間が短くなってしまうので、より安全に足を着くことが難しくなってしまいます。

リハビリにおいては一般的な両足ジャンプと片足ジャンプをもちろん練習しますが、時期を見て膝を外に開いた状態でのジャンプも練習する必要があります。

この練習を怠ってしまっては、実際のバレエでジャンプをしたときの関節安定性が獲得できません。

バレエ動作に合わせた関節角度で筋肉を使い、動作の練習をすることが大切です。

トウシューズの特異性

バレリーナのリハビリを行う上で考慮しなければいけないのはトウシューズです。

最初は運動靴や裸足で基本的なバレエ動作の習得を行いますが、リハビリの最終段階ではトウシューズを履いてリハビリを行うことが大切です。

これは、トウシューズを履いた状態と履いていない状態では膝にかかる負担や動作に使う筋肉が変わるからです。

この差に関しては、実際に私もリハビリ中に気付かされ、驚かされました。

それまで痛みなくできていた動作も、トウシューズで行うと痛みを感じたり、片足動作やバランス姿勢は格段に不安定になりました。

このことから、バレリーナのリハビリを考える上では”トウシューズを履いた状態で行う動作、使う筋肉”を考慮してリハビリメニューを考えることが重要となります。

バレエのリハビリの進め方

バレエの経験がない理学療法士にとって、どのようなリハビリをしたら再びバレエが踊れるようになるのか?ということが、リハビリを考える上で最も困難となります。

これを解決する上で大切なのは、バレエの動きを細かく分けて考えるということです。

バレエの動きは大きく分けて、ジャンプ、ターン、ステップの3種類に分けることができます。

そして、それぞれの動作の中でさらに難易度の低いものから高いものに分け、順番に動作を習得していくと、スムーズに全ての動作を再習得することができます。

一般的な病院でリハビリを受けるバレエダンサーが1番困っているのがこの点です。

病院で日常生活や、基本的な動きのジャンプやランニングができるようになるまでリハビリを受けても、それらの動作がバレエとかけ離れてしまっているので、そのままバレエに復帰することが難しく、不安に感じてしまいます。

リハビリの段階でバレエ動作を練習することで、より安全に、安心して舞台復帰することができます。

それではそれぞれのバレエ動作について、実際のリハビリ例を紹介します。

バレエのジャンプ動作のリハビリ

バレエで最も怪我の危険性が高く、身体に負担のかかる動きはジャンプです。

特に膝や股関節、足首へのストレスは高いので、より安全にリハビリしていくことが大切です。

先述しましたが、バレエの片足ジャンプは足を外に向けて着地するという特徴があります。

この動きの特性をリハビリにも組み込むようにしましょう。

一般的な膝を正面に向けたジャンプばかり練習していても、バレエのジャンプが上手く跳べるようになるとは限りません。

まずはバレエで使われる、基本的なジャンプ動作を難易度順に並べてみます。

  • 両足のジャンプ
  • シャンジュマン
  • アッサンブレ
  • パディシャ
  • フェルメ
  • グランパディシャ

リハビリをする上でもこの順番のように、簡単なものから段階的に難しいジャンプを練習するようにしましょう。

それでは実際に、バレエで最も難易度の高いジャンプとされるグランパディシャが跳べるようになるまでの、リハビリの流れを一例として紹介します。

左足で踏み切るグランパディシャの動きを細分化すると、以下の動作に分けることができます。

  1. 助走
  2. 左足踏み切り
  3. 空中で足を前後に開く
  4. 伸ばした右足を曲げて着地(着地時はつま先と膝が外側を向く)

リハビリではこれらの動作をさらに細かくエクササイズに落とし込み、段階的に練習していきます。

私は以下の段階を踏んで、最終的にもう一度グランパディシャが跳べるように計画しました。

  1. 両足ジャンプ
  2. 片足ドロップスクワット
  3. フォワードホップ
  4. 助走だけ
  5. 片足ストップ
  6. 補助あり片足ジャンプ(つま先の角度変えながら)
  7. 補助ありグランパディシャ
  8. 足を開かずにグランパディシャ(30%ほどで)
  9. グランパディシャ(50%で)
  10. グランパディシャ(80%で)

実際はこの倍ほど細分化して運動強度を段階的に上げながら動作の習得を行いました。

このような流れで取り組むことで、徐々に運動強度を上げながら実際に目標となる動作に近づいていき、かつグランパディシャに必要な全ての動作、関節角度での筋収縮をカバーしているのがわかるかと思います。

両足ジャンプの後いきなり片足ジャンプに移るようなリハビリだと、運動強度が急激に上がりすぎて負荷が増えてしまいます。

怪我の再受傷リスクも上がってしまいますので、段階的に、少しずつ難しくなってくようなリハビリを計画しましょう。

バレエのターン動作のリハビリ

バレエのターンは難易度も大事ですが、足に対して内側と外側どちらの方向に回転するかがより大事になってきます。

ターン動作を分別するときは、回転方向に分けて考えると理解しやすいです。

軸足に対して内側に回転する
  • ピルエット
  • アティチュードターン、など
軸足に対して外側に回転する
  • ストゥニュ
  • シェネ
  • ピケターン(アンドゥダン・アンディオール)
  • フェッテ、など

ターン動作の難易度と安全性は怪我の種類によって大きく異なります。

例えば前十字靭帯の怪我をしたバレエダンサーの場合は、膝が内側に捻れることが怖いので、フェッテよりもピルエットの方が難しいです。

逆に、足首の内反捻挫をした人にとっては、足を外側に捻ると痛みが出やすいので、ピルエットよりもフェッテの方が難易度が上がります。

怪我の種類を考慮して、より難易度の低いターンから順番に練習するようにしましょう。

また、いきなり最後まで回ってしまうのではなく、最初は半回転から始めたり、その前に台に手を置いて補助をつけるとより安全に練習することができます。

急に強度が上がり過ぎてしまわないように、少しずつ安全にリハビリを進めていきましょう。

バレエのステップ動作のリハビリ

バレエのステップ動作は動きが複雑で早いものが多いです。

また、ジャンプやターンのような単独の動作は少なく、それらの動きへと繋がる動作になることが多いと言えます。

そのため、ステップ動作だけの練習をすることも大切ですが、早い動きの中で正確なステップを踏めることが重要となってきます。

パッセやアラベスクなど、その場で行うのは簡単な動作でも、他の動きと繋げると急に難易度が上がります。

段階的に難易度を上げて正確に動けるようにリハビリを進めていきましょう。

また、バレエでは片足でバランスよく立つ技術も重要なので、片足バランスのエクササイズも忘れずに入れるようにしましょう。

実際のバレリーナのリハビリ

それでは実際にバレリーナの内藤亜仁さんがLifelongで受けられた、前十字靭帯断裂後のリハビリの一部を紹介します。

このリハビリは内藤さんのためだけに考えたプログラムなので、全く同じトレーニングをしても他の方が良くなるとは限らないことだけご注意ください。

スポーツ専門の理学療法士が考えた、バレエに特化したリハビリの例として参考にしていただければと思います。

バレエダンサーの方にはご自身がどのようなリハビリを受けて舞台復帰を目指すのか。

また、大怪我からリハビリを経て再びバレエを踊っている内藤さんの姿を見て、少しでも希望を持っていただけたら嬉しく思います。

理学療法士やトレーナーの方は、バレエダンサーのリハビリを担当する際の、メニュー作りのアイデアとして活用いただければと思います。

この記事とリハビリ動画を通じて、一人でも多くのバレエダンサーやアーティストがより質の高いリハビリを受け、安全に舞台復帰できることを願っています。

最後に、この記事でリハビリの様子を紹介させていただいた、内藤亜仁さんをぜひ一緒に応援してください。

前十字靭帯断裂という大怪我から舞台復帰を目指されています。

Lifelongに来られるまでにトルコで受けていたリハビリや帰国後のリハビリ風景は、内藤さんのInstagramに載っているので参考にしてみてください。

ぜひフォローいただきますようお願いいたします。

内藤さんのInstagramへはこちらをクリック

内藤亜仁さんのYouTubeチャンネルはこちら

前十字靭帯を断裂したバレエダンサーに関する医学論文を解説した記事もございますので、こちらもぜひ参考にしてください。

Lifelongのオンラインリハビリテーション

遠方にお住まいで当店まで通うことができない方のために、Lifelongではオンラインでのリハビリ指導を行っています。

専門性の高い理学療法士に直接相談できるということで、国内外の方からご好評いただいています。

お身体の相談からリハビリメニュー作成依頼まで、お困りごとがある方はぜひご利用ください。

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