2024.07.31
インタビュー
『1度できなくなったバレエがもう1度できる幸せ』前十字靭帯断裂のリハビリを受けたバレリーナの感想
執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)
ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。
トルコのイスタンブール国立劇場でバレリーナとして活躍する内藤亜仁さんに、前十字靭帯断裂後のリハビリをLifelongで受けていただきました。
内藤さんは練習中のジャンプで右膝の前十字靭帯を断裂。
トルコで手術とリハビリを受けていましたが、一時帰国している間にリハビリができる場所を、ということで当店にご相談いただきました。
日本に帰国中の約4ヶ月間、基本的なリハビリだけでなくバレエに特化したリハビリを受けていただきました。
真摯に、一生懸命にリハビリに取り組んでいただけた結果、まだバレエの動作をほとんど練習していなかった状態から、最後には1曲踊り切れるようになるまで回復されました。
国際的に活躍されているバレリーナの内藤さんに、Lifelongをご利用いただいた感想を伺いました。
内藤 亜仁さん
- 練習中に右膝前十字靭帯を断裂
- 基本的なリハビリを続けていた
- バレエ動作はまだ練習していない
- 今秋の舞台復帰を目指す
Lifelongの利用目的
日本のどこでリハビリを続けたら良いかなと思って調べていて、”バレエ 前十字靭帯 リハビリ”と調べたら出てきたんですよ。
それで最初に先生に連絡して、連絡取るうちにすごい親身になって答えてくださったので、ここにしようって決めました。
実際に日本に帰ってきて来てみたら、ちゃんとしてる、自分的にここでやっていけるって確信が持てたので、そのときにここで続けようと、その日に確信しました。
これまで何人かのバレエダンサーのリハビリを担当した経験を頼っていただき嬉しく思います。
Lifelongには一時帰国をされていた3ヶ月半の間通っていただき、バレエ動作に特化したリハビリに取り組んでいただきました。
Lifelongを選んだ理由
というのも、私がしている競技がバレエですごい特殊な競技になるので、それを経験しことがある先生が良かったです。
保険とかきくところやったらケアしてくれなさそうなところもちゃんと見てくれそうやなと思ったんで。自分が実際に行って納得したところでしたいなっていうのがあったので、大きな病院とかはそもそも考えてなかったです
実際、内藤さんは週に3日、1回2-3時間のリハビリを受けていただきました。
トップアスリートのリハビリでは1日でも早く、少しでも良い状態に回復させることが最重要です。
必要な方には必要なだけ時間をかけて、普通では手の届かないところまで対応させていただくようにしています。
運動療法の感想
それが嬉しかったです。
できていて、できなくなってしまったことがもう一回できることがすごい幸せやなって、幸せ噛み締めて復帰できたら良いなと思います。
3ヶ月半通ったんですけど、最初の日から最後の日まで全部信頼してできました。
特にバレエの動作は片足ジャンプなど負担が大きいものや、膝を捻る動作が多いので再断裂の恐怖との戦いにもなります。
このような動作を少しでも不安なく挑戦するためには、段階的にリハビリを進めていく必要があります。
膝に負担をかけず、少しずつ少しずつ難易度を上げていき、いつの間にか目的の動作ができるようになっている、というリハビリにこだわって計画しています。
バレエに特化したリハビリの感想
メニューの組み方が多分バレエの先生に習うより、私的にはもっとパフォーマンス向上に繋がるメニューやったなと思うのですごい感謝してます。
そのため、一般的なバレエ教室で受ける指導とは違うかも知れませんが、そこは内藤さんと相談しながら進めさせていただきました。
トレーニングに取り組んでいただきながら、実際のバレエ動作との感覚の相違などを、細かく確認しました。
お互いにわからないことがあれば質問し合い、2人3脚で進められたことが、より安全で効果的なリハビリを行えた理由だと思います。
身体の変化
バレエの動きも、最初はそれこそ怪我したときの動きをするのがすごい怖かったです。夢に出てくるぐらい。
それが気づいたらできてたっていうのが、ここに通って良かったなってすごい思いました。
怪我をした動作をもう一度行うということは、リハビリ中に最も恐怖を感じることで、大きな壁となります。
この壁を乗り越えることが、トルコに帰られた後も、少しでも安心してリハビリを進めるための後押しになると考えていました。
ジャンプの練習にはかなりの時間をかけながら慎重に、安全に、少しずつ進めていき、最終的には80%ほどの力でグランパディシャを跳ぶことができるようになりました。
バレリーナ専用の前十字靭帯のリハビリ方法
専門的に調べてみるとわかることですが、バレエは膝への負担が大きい動きが非常に多いです。
片足ジャンプが多いこともありますが、基本姿勢や動作の隅々に”膝をできるだけ外側に開く”という特徴があります。
この動作はニーイン(knee-in)と言って、前十字靭帯へ負担がかかる関節の動きになります。
一般的な前十字靭帯のリハビリでは、このニーインと呼ばれる膝が内側に倒れる動作を避けるよう指導するのが一般的ですが、バレエは競技特性上、この指導を行うことが難しいです。
そのため、リハビリを進める上で特に気をつけたのは”膝が内側に倒れすぎない”と”内側に倒れても安定性を維持できる”という2点です。
バレエ動作において膝は内側に倒れるものだと理解した上で、その関節位置でもしっかりと安定性を獲得できるようにリハビリメニューを考えました。
そして動作の練習をできる限り細分化し、段階的に少しずつ難しくすることで、膝に負担をかけ過ぎることなく進めていくことができました。
具体的な解説
プリエと呼ばれる動作を見るとわかるように、バレエの基本姿勢は大腿骨外旋、脛骨内旋、そして足関節も外反しています。
ジャンプの着地姿勢もこの関節位置を維持しなければいけないので、膝は常に内側に入っていると考えられます。
この特徴を理解した上でニーイン動作を避けるのではなく、膝が内側に入った状態でも関節安定性を維持できることが大切です。
リハビリではあえて膝を内側に入れた状態で筋出力を高めるトレーニングを取り入れたり、ジャンプの着地姿勢となる膝関節軽度屈曲位での安定性向上トレーニングを行いました。
アスリートのリハビリを行うときは、一般的なガイドラインに従い過ぎるのではなく、その競技特性に合わせてリハビリを考えることが大切です。
Lifelongでは以下のポイントに焦点を当てた運動療法に取り組んでいただきました。
- バレエ動作に必要な筋力の獲得
- 段階的なバレエ動作の習得
- 片足立ち姿勢での安定性向上
- 曲の振りに合わせた動作の練習
Lifelongに来られた頃は、まだバレエ動作の練習はほとんど初めていませんでしたが、3ヶ月半の間にバレエで必要な動作はほぼできるようになりました。
実際にバレエ団での練習に使われる曲も含め、5曲ほど踊れるまでに回復されました。
まだ全ての曲をトウシューズで踊ることはできないので、これから少しずつトウシューズを履く時間を増やしていただき、完全復帰まで進めていけたらと思います。
今後の目標
ただ、実際手術してからってそんなどころじゃなくて、日常生活取り戻すのも必死やったし、最初はバレエをゼロから学び直すっていう絶望感から始まってたんですけど、今思うのはバレエってスポーツじゃないから結構内面から出てくる部分も大きいんで、もっと表現とか、今までなかった部分がプラスアルファされて、もっと舞台でこれを経験したからこそできる踊りがお客様に届けれたらなって思います。
しかし、この怪我を乗り越えた人にしかできない表現もあるかと思います。
今後の舞台では今まで以上に表現力、深みのある踊りで多くの観客を感動させられると信じています。
真面目で、頑張り屋で、プロ意識が高く、礼儀正しくて、誰にでも優しく、いつも周りの人が自然と笑顔になれる内藤さんの活躍を、これからも応援させていただきます。
前十字靭帯断裂の大怪我を乗り越えて舞台復帰を目指す内藤亜仁さんをぜひ一緒に応援してください。
Lifelongに来られるまでにトルコで受けていたリハビリや帰国後のリハビリ風景は、内藤さんのInstagramに載っているので参考にしてみてください。
ぜひフォローいただきますようお願いいたします。
スポーツ専門の理学療法士による治療とリハビリを試されたい方は、ぜひ一度ご相談ください
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