前十字靭帯断裂は3人に1人がリハビリだけで回復する可能性がある

今回紹介するのは2022年10月に発表された”前十字靭帯靭帯断裂後にリハビリだけで前十字靭帯が回復した場合、主観的な改善状態も良好な傾向がある”という論文です。

この論文の研究結果は以下のとおりです。

  •  前十字靭帯を断裂した3人に1人がリハビリだけで回復した
  •  リハビリだけで回復した患者の方が主観的評価が高い
  •  ただし、手術を受けなければ膝の安定性は戻らない可能性がある

この研究内容で驚いたのは、前十字靭帯断裂患者の3人に1人は手術なしで回復したという事実です。

また、手術なしで回復した患者は膝の状態を主観的に評価したとき、手術を受けた人よりも評価が高かったようです。

前十字靭帯を断裂したら再建手術を受けるのが一般的ですが、もし手術なしでも回復する見込みがあるのであれば、非常に興味深い情報だと思います。

論文の前にまずは前十字靭帯損傷に関してより詳しく知りたい、という人はこちらの記事をご覧ください。

前十字靭帯の治療とリハビリ

国内外で活躍するスポーツトレーナーが前十字靭帯の治療からリハビリまで丁寧に紹介。再発リスクの高い怪我だからこそ、競技特性に合わせたリハビリが必要です。

前十字靭帯のリハビリを受ける男性

この記事は海外で理学療法を学んだプロのスポーツトレーナーが執筆しています。

このページの執筆者

中尾 優作 スポーツトレーナー/理学療法士

イギリスの大学、ベルギーの大学院で理学療法を学ぶ。国内外のプロスポーツクラブでトレーナーとして活動したのち、地元神戸でリハビリジム【ライフロング】を設立。トレーナー歴17年。

主な活動場所
⚫︎ 欧州サッカークラブ
⚫︎ B.LEAGUE
⚫︎ 東京2020オリンピック

論文の概要

この研究はスウェーデンで行われ、研究に参加したのは18歳から35歳の前十字靭帯断裂患者です。

参加者はMRI検査によって前十字靭帯の断裂が確認されています。

全員が適度な運動習慣を持っていて、全く運動していない人やプロスポーツ選手は参加者に含まれていません。

研究には合計120人が参加し、以下のようにグループ分けされました。

グループ① (62人):すぐに前十字靭帯の再建手術を受けてリハビリを行う
グループ② (58人):まずリハビリを行い、必要に応じて再建手術を受ける

グループ②に振り分けられた人は膝の回復状態によってさらに3つのグループに分けられています。

A. リハビリだけで前十字靭帯が回復したグループ

B. リハビリだけで前十字靭帯は回復しなかったグループ

C. リハビリをしていたが、後から再建手術を受けたグループ

少し分かりにくいですが、まとめると全部で4つのグループなります。

① すぐに前十字靭帯の再建手術を受けてリハビリを開始

② リハビリだけで前十字靭帯が回復した

③ リハビリだけで前十字靭帯は回復しなかった

④ リハビリをしていたが、後から再建手術を受けた

このグループ同士で膝の回復状態を比較しています。

3人に1人がリハビリだけで前十字靭帯が回復

この論文で最も重要なことは、実験開始から2年後の時点で前十字靭帯再建手術を受けなかった54人のうち16人の前十字靭帯に回復が見られたということです。

このうち24人は途中で再建手術を受けているので、実際にはリハビリだけを2年間行った患者30人中16人が回復したと考えられます。

前十字靭帯は自然治癒する可能性が非常に低いと考えられているので、この数字の多さには驚きです。

前十字靭帯回復の評価

この研究ではACLOASというテストで前十字靭帯の回復状態を判断しています。

ACLOASは前十字靭帯のMRI画像を放射線科医が見て、0から3のスコアをつけます。

0は連続性の見られる健常な靭帯、3は完全断裂を表しています。

今回の研究では、0から2の評価に対して”前十字靭帯が回復している”という扱いにしています。

膝の主観的評価はリハビリだけで回復した患者が高い

今回の論文では膝の回復状態を評価するためにKOOS(Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score)という質問表が使われています。

これは自分の膝をどのように感じるか?どのような動作で痛みを感じるか?という質問に対して、患者自身が答えるものです。

この質問表への回答ですが、研究開始から2年後の時点ではリハビリのみで前十字靭帯が回復したグループが最も高く評価していました。

研究から5年後の時点でも同じグループが最も高い評価をしていましたが、他グループとの差は小さくなっています。

膝の緩さは残ってしまう可能性

この研究では膝の”緩さ”を測るためにピボットテストとラックマンテストという検査を行っています。

これらの検査は医師が実際に膝を動かして前十字靭帯の強さと膝の安定性を確認する検査です。

研究から2年経過した時点で、前十字靭帯断裂後すぐに再建手術を受けてリハビリに取り組んだグループは、ピボットテストでの正常性が100%、ラックマンテストでは93%という数値でした。

しかし、リハビリだけで前十字靭帯が回復したグループはそれぞれ75%と44%しかありませんでした。

この数字を比較すると”再建手術をしなくても前十字靭帯がくっつくことはあるけど、靭帯の強さまでは戻らない”可能性があるかもしれません。

客観的な評価不足

今回の研究で使用された評価基準は、患者の主観的な評価が多いです。

客観的な評価としては上で紹介した関節の緩みを確認する検査がありますが、この評価は少し低い数字でした。

この研究には筋力や動作における客観的な評価が不足しています。

リハビリだけで前十字靭帯が治った膝は、筋力まで十分に回復したのか?ジャンプ力やスプリント力などの競技パフォーマンスは低下していないか?という疑問が残ります。

これに関しては以前紹介したこちらの論文が参考になるかと思います。

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損傷していない膝との比較

客観的な評価が足りていないのに加えて、前十字靭帯を損傷していない膝との比較も必要です。

例えば患者本人の怪我していない側の膝と比べて、機能が十分に回復しているかを確認することが大切です。

今回の論文における比較対象は全て前十字靭帯を断裂した膝でした。

前十字靭帯の再建手術なしで回復した膝が、健常な膝に対してどこまで回復できたかを調べる必要があります。

まとめ

  •  前十字靭帯を断裂した3人に1人はリハビリだけで靭帯がくっつく可能性がある
  •  リハビリだけでくっついた靭帯は強度までは回復しない可能性がある
  •  リハビリだけでも主観的に問題がないレベルに回復はするが、スポーツ復帰できるほど回復するかは情報不足

今回紹介した論文だけでは、前十字靭帯を断裂したときにリハビリだけでスポーツ復帰できるとは考えにくいです。

しかし、自然治癒が難しいとされている前十字靭帯が手術なしで回復する可能性があることは、今後のスポーツ医学にとっては重要です。

研究が進められて、どのような条件だと自然治癒が見込めるか?安全にスポーツ復帰できるまで機能が回復するのか?などが解明されていけば、将来的に前十字靭帯を手術なしで治療できる日が来るかもしれません。

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