2022.05.22
前十字靭帯損傷
前十字靭帯損傷のリハビリテーション
執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)
ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。
前十字靭帯のリハビリは、スポーツの怪我の中で最も難しいリハビリと言えます。
怪我をしてから復帰するまでに6ヶ月以上の期間が必要で、かつ再発の可能性が高い怪我なので安全にも気をつけなければいけません。
この記事では、プロのスポーツ選手を実際にリハビリしてきたスポーツトレーナーが、前十字靭帯を断裂してから試合に復帰するまでのリハビリを解説します。
最後まで読むとこのようなお悩みを解決することができるので、ぜひ参考にしてください。
記事の内容
- 前十字靭帯を痛めたときの応急処置を知りたい
- 前十字靭帯の手術前後のリハビリメニューを知りたい
- 前十字靭帯から競技復帰するときの注意点を知りたい
受傷直後の応急処置から試合に復帰するまで、毎日選手のリハビリを担当するスポーツトレーナーならではの実践的な治療とリハビリを紹介しています。
前十字靭帯を損傷してしまってこれからリハビリを受ける選手や、自分のクラブにいる選手が前十字靭帯を怪我してしまったのでリハビリについて詳しく知りたいトレーナーのお役に立てる記事になっています。
目次
前十字靭帯リハビリの流れ
前十字靭帯は膝関節の中にあり、膝を安定させるための靭帯です。
スポーツや日常動作で前十字靭帯が損傷や断裂した場合は手術をして修復しますが、これを”前十字靭帯再建術”と呼びます。
手術後は膝の曲げ伸ばしができず、筋力も衰えてしまっているので、元の状態に戻すにはリハビリを行う必要があります。
前十字靭帯のリハビリは、大きく分けて4つの段階があります。
- 受傷直後の応急処置
- 手術前のリハビリ
- 手術後のリハビリ
- 競技復帰するためのリハビリ
それぞれの時期によってリハビリの目的やメニューが変わってくるので、順を追って紹介していきます。
前十字靭帯を損傷した直後
前十字靭帯の受傷直後は、腫れと痛みを抑えて損傷を悪化させないことが大切です。
PIECE & LOVE
以前はRICE処置と言われていた応急処置法は、今やPIECE & LOVEと呼ばれています。
RICE処置に含まれていた”安静”と”アイシング”がなくなり、炎症を無理に妨げないことが重要視されるようになりました。
まとめて紹介すると、このようになります。
- Protection(保護): 怪我した部位を動かさない
- Elevation(挙上): 怪我した部位を高く挙げる
- Avoid Anti-Inflammatories(抗炎症薬を避ける): 痛み止めやアイシングをしない
- Compression(圧迫): 弾性包帯で腫れを抑える
- Education(教育): 最適な対処法を患者に教える
- Load(負荷): 徐々に負荷をかける
- Optimism(楽観思考): 自信を持ち、前向きになる
- Vascularisation(血流増加): 血流を上げて回復を早める
- Exercise(運動): 身体機能を回復させる
アイシング
前十字靭帯を損傷した直後は膝が大きく腫れてしまいます。
腫れが関節内に残ってしまうと、膝の可動域と筋力が低下してしまいます。
怪我をした初日は4時間おきを目安にアイシングをすると、必要以上の腫れを押さえることができます。
応急処置のPIECE & LOVEではアイシングが推奨されていませんが、前十字靭帯損傷などの大怪我のときは、受傷直後だけはアイシングすることをおすすめします。
2日目以降は継続的なアイシングを控え、膝を動かした後にだけ冷やすようにしましょう。
松葉杖
前十字靭帯を断裂したときは、膝が不安定になり体重をうまくかけることができません。
さらに、無理して体重をかけてしまうと、半月板や軟骨などの膝関節内にある他の組織を傷つけてしまう危険があります。
膝の腫れと痛みが落ち着くまでは、松葉杖を使って痛めた膝に体重をかけないようにしましょう。
病院の受診
膝関節の診断には病院でのMRI検査が不可欠です。
前十字靭帯損傷が疑われる場合は、MRI検査によってのみ正確な診断を行うことができます。
また、MRI検査では半月板や側副靭帯の状態も確認することができるので、他に合併症がないかも調べることができます。
万が一2度以上の前十字靭帯損傷と診断された場合は、医師と話し合って前十字靭帯再建手術の日程を決める必要があります。
前十字靭帯再建手術前のリハビリ
前十字靭帯を痛めてから手術を受けるまでに3週間ほど空けるのが一般的です。
受傷直後では膝関節の中に腫れが溜まり、可動域と筋力も低下しています。
この状態のまま手術を行うと、術後の治りが悪くなるという報告がされているので、前十字靭帯再建手術の前に膝の機能を最大限回復させる必要があります。
手術までの目標は以下のとおりです。
この時期の目標
- 膝関節の可動域訓練
- 膝関節まわりの筋力強化
- 腫れの軽減
特に膝の伸展可動域と大腿四頭筋の筋力は術後の回復速度に大きな影響を及ぼすと言われているので、できる限り改善するように努力しましょう。
膝関節の可動域訓練
膝関節は膝を伸ばす”伸展”と膝を曲げる”屈曲”が主な動きの関節です。
解剖学的な可動域は、伸展が0度(完全に真っ直ぐ)と屈曲が140度です。 前十字靭帯再建手術までに少しでも可動域が上がるようにリハビリを行いましょう。
膝関節伸展の可動域訓練
膝を伸ばす伸展の可動域を上げるためのリハビリメニューを3つ紹介します。
トレーナーによる伸展運動
スポーツトレーナーや治療家がリハビリを手伝ってくれる場合は、手技で膝を伸ばしてもらいましょう。
自分では痛みが強くて動かせない場合も、トレーナーにお願いすることで筋肉の緊張がなくなり、より大きな可動域で動かすことができます。
膝を伸ばすトレーナーは、選手が強い痛みを感じない程度に関節を伸ばすようにしましょう。
プローンハング
これは重力を利用して膝を伸ばすエクササイズです。
ベッドでうつ伏せになり、膝がちょうどベッドの端にくる位置に寝ます。
膝の下にタオルを1枚入れるとより膝が伸びやすくなります。 この状態を5分から10分間ほど保っていると、重力によって膝が少しずつ伸びてきます。
ヒールプロップ
リハビリ前の可動域訓練としても効果的なメニューです。
このエクササイズも重力を使って膝を伸ばしますが、こちらは仰向けになります。
膝をできるだけ真っ直ぐ伸ばし、踵の上にタオルやストレッチポールを置きます。
すると、重力によって膝が少しずつ下がるので、膝の伸展可動域が改善します。
痛みを我慢できる範囲でいいので、自分で少し膝を押してあげるとより効果的です。
膝関節屈曲の可動域訓練
トレーナーによる屈曲運動
前十字靭帯を損傷したときは、膝の伸展よりも屈曲の可動域が元に戻りにくいです。
ですので、トレーナーなどリハビリを手伝ってくれる人に頼ることができれば早く改善しやすいです。
方法としては、仰向けになって膝を曲げ、強い痛みが出ないようにトレーナーがゆっくりと膝を曲げます。
可動域を回復させるためには、少し痛みが出るところまで押すようにしましょう。
力加減に関してはトレーナーの経験が重要なので、無理はしないようにしてください。
ヒールスライド
膝を伸ばして座った状態で、足の裏にかけたタオルを両手で持ちます。
踵を床に沿わせて自分に近づけるように膝を曲げていきます。
少し痛みが出るところまで膝を曲げたら、膝を伸ばして繰り返します。
ウォールスライド
仰向けに寝転がったまま壁に足の裏をつけます。
足を床に沿わせるように、膝を曲げていきます。
最大まで曲げきったら、また膝を伸ばして繰り返します。
痛みが出すぎない程度に、逆足で膝を押せるとより効果的です。
その他の可動域改善方法
自分で行うモビリゼーションや、プールと自転車を使った運動も膝関節の可動域を改善することができます。
膝蓋骨のモビリゼーション
膝蓋骨とは膝のお皿のこと、モビリゼーションは手技による関節運動のことです。
膝を怪我すると膝周辺の組織が硬くなり、お皿の動きも悪くなってしまいます。
お皿のスムーズな動きは膝関節の安定性に大きく関わるので、自分で動かして硬さを取り除きましょう。
膝蓋骨は膝が伸びきった状態のときに動かしやすいので、まずは長座姿勢になります。
両手の親指と人差し指でお皿を持ち、上下左右に向けてお皿を動かします。
どの方向にも滑らかに動くようになるまで毎日行いましょう。
プールでの運動
プールでは浮力が働くので体重は3分の1になると言われています。
体重が減ることで膝にかかる負担も減るので、地上よりも安全に運動ができます。
また、地上ではできないような負荷の高い運動も、水中なら行えることがあります。
具体的には水中での歩行やジョギング、スクワットやランジを行うと可動域改善に効果的です。
注意点ですが、クロール中に行うバタ足動作は、膝にねじれるような負荷がかかってしまうことがあるので、やらないようにしましょう。
自転車での運動
自転車やエアロバイクも体重をかけずに膝を曲げ伸ばしすることができるので、関節可動域を増やすことができます。
サドルを高くするほど膝の伸展がしやすく、屈曲がしにくくなります。
可動域の改善状況に合わせて、できるだけ膝を伸ばせる位置にサドルを調整しましょう。
膝関節まわりの筋力強化
前十字靭帯の再建手術を受ける前に筋力をできる限り鍛えておきましょう。
再建手術ではメスや関節鏡が使われることもあり、手術後には膝の伸展と屈曲の力が大きく低下します。
しかし、手術前に膝の筋力を上げておくことで術後の回復が早くなるという研究結果が報告されています。
なので、膝の伸展させる大腿四頭筋と屈曲させるハムストリングスの筋力を、手術日までにできる限り強化しておくことが大切です。
大腿四頭筋の筋力強化
大腿四頭筋は太ももの前面についている筋肉で、膝関節の伸展動作に関わる筋肉です。
前十字靭帯の再建術後には膝周りの筋肉が弱くなってしまいますが、特にこの大腿四頭筋の筋力低下が顕著に見られます。
なので、手術前に可能な限り筋力をつけることが大切です。
膝蓋骨セッティング
足を伸ばして地面に座り、膝の裏に丸めたタオルを入れます。
タオルを地面に押し付けるように膝を伸ばします。
膝蓋骨の上部内側にある内側広筋という筋肉に力が入るように行いましょう。
レッグエクステンション
椅子に座り、足首に重りやゴムバンドで抵抗をかけて膝を伸ばします。
スポーツジムを利用している人はジムにあるマシンを使っても大丈夫です。
痛みを感じるほど負荷が強すぎると、膝に負担がかかってしまうので注意してください。
ステップアップ
段差に片足を乗せ、膝を伸ばすと同時に段差の上に登ります。
片足で行うエクササイズなので、バランスが不安定に感じる人は壁に片手をつきながら行いましょう。
ハムストリングスの筋力強化
ハムストリングスは大腿四頭筋の逆で、太ももの裏側についている筋肉です。
正確には大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋という3つの筋肉をまとめてハムストリングスと呼んでいます。
ハムストリングスは膝関節を曲げるときに使われる筋肉で、前十字靭帯が断裂して不安定な膝がぐらつかないように支える役目もあります。
レッグカール
足を伸ばしたまま仰向けになり、かかとにゴムバンドで抵抗をかけた状態で膝を曲げます。
できるだけ踵がお尻に近づくように、大きな可動域で動かしましょう。
レッグプレス
スポーツジムに通っている人は、レッグプレスマシンを使ってハムストリングスを鍛えましょう。
足幅を肩幅と同じくらい開き、膝が90度になる角度で足を置きます。
慣れてきたら負荷を減らし、片足で行いましょう。
スクワット
動作中に膝がぐらつくような感覚や痛みがなければ、スクワットも行いましょう。
膝が前に出すぎると膝関節へのストレスが増加してしまうので、股関節を後ろに引くイメージで腰を落とすと良いです。
バランスボールを持っている人は、ウォールスクワットから始めるとより安全です。
腫れの軽減
前十字靭帯は膝関節の中になる靭帯なので、損傷や断裂が起こると関節内が大きく腫れてしまいます。
関節に腫れが溜まっていると、関節の可動域や筋力が改善しにくくなると言われています。
膝関節の圧迫や挙上、リハビリ後のアイシングを忘れずに行って腫れを減らしましょう。
前十字靭帯再建手術後のリハビリ
前十字靭帯の再建手術方法にはハムストリングス腱、膝蓋靭帯、人工靭帯など何種類かの方法がありますが、術後のリハビリは同じです。
前十字靭帯のリハビリでは、膝の状態に合わせた適切な可動域訓練と筋力トレーニングが肝心です。
慎重になりすぎて負荷の低いリハビリを続けていると、関節が硬くなったり筋力不足で膝が不安定になってしまうこともあります。
強い痛みが出ない範囲で適度な負荷をかけてあげることが、膝を早く正確に直すために重要です。
それでは順を追って前十字靭帯のリハビリメニューを紹介します。
前十字靭帯手術後1〜2週のリハビリ
前十字靭帯再建術を受けてから最初の1週間は可動域の改善と腫れの軽減が主な目標です。
この時期の目標
- 膝関節伸展可動域: 180度
- 膝関節屈曲可動域: 70度
- 腫れの軽減
- 膝の筋力強化
膝関節の可動域訓練
前十字靭帯の手術直後、特に重要なのは関節可動域の改善です。
屈曲に比べて伸展の方が回復しやすく、早期の伸展可動域の獲得がリハビリをスムーズにすると言われています。
伸展は膝が完全に真っ直ぐになる180度、屈曲は70度を目指しましょう。
可動域の改善方法は、手術前に行ったヒールプロップやウォールスライドなどのリハビリメニューになります。
膝蓋骨の動きが悪いと膝関節の可動域が戻りにくくなるので、膝蓋骨のモビリゼーションも合わせて行いましょう。
腫れの軽減
手術前と同じになりますが、膝が腫れていると可動域と筋力の回復が遅くなると言われています。
圧迫やリハビリ後のアイシングを忘れずに行いましょう。
膝の筋力強化
可動域の改善と同時進行で筋力も元に戻しましょう。
リハビリを始めた直後は膝が不安定なので、体重をかけずに行える筋トレがおすすめです。
膝蓋骨セッティングやSLR、ヒップエクステンションで膝に関わる筋肉を鍛えましょう。
SLR(ストレートレッグレイズ)
ヒップエクステンション
膝関節に近いふくらはぎや臀部の筋肉をトレーニングすることも大切です。
この時期の注意点
前十字靭帯の手術直後は膝に力が入りにくく不安定なので、不安のある人は歩く際は装具や松葉杖を使いましょう。
しかし、松葉杖を使う期間が長いほど可動域と筋力の回復が遅れるので、無理のない範囲で早めに自分の足で歩き始めることも大切です。
前十字靭帯手術後3〜4週目のリハビリ
前十字靭帯再建手術から3-4週経過すると、膝の関節可動域と筋力がかなり改善しています。
この期間での目標はこのようになります。
この時期の目標
- 膝関節屈曲可動域: 120度
- 通常歩行
- 自重トレーニングの開始
膝関節の屈曲可動域訓練
膝の伸展可動域は最初の2週間で回復することが多いですが、屈曲はもう少し時間がかかります。
前十字靭帯の手術後4週間、およそ1ヶ月で120度まで膝を曲げられるように頑張りましょう。
今までの可動域訓練をより負荷をかけて行うことに加えて、自分の体重を利用した可動域訓練も取り入れましょう。
膝関節屈曲可動域改善スクワット
通常歩行
前十字靭帯の手術後1ヶ月を目安に、通常歩行ができるようになります。
松葉杖などの補助具を使わずに痛みなく歩けることを目標にしましょう。
まだ膝関節の屈曲が元に戻っていないので、膝を曲げる動きに難しさを感じると思います。
ハードルや障害物をまたぐリハビリをして、スムーズに足を運ぶ練習をしましょう。
ハードルオーバー
自重トレーニングの開始
手術直後は膝の腫れや不安定感が強いので仰向けや座位での運動が中心ですが、少しずつ膝に体重がかかる運動を始めていきましょう。
特にスクワットやランジのようなエクササイズは膝が体重を支えながら曲がる運動なので、膝の屈曲可動域の改善にも効果的です。
膝の状態次第では、3週を待たずにより早い段階で自重トレーニングを始めることができる人もいます。
ステーショナリーランジ
その他のアドバイス
バイクや自転車
この時期からエアロバイクや自転車に乗ることができるようになります。
膝の屈曲が90度以上曲がるようになったら、ぜひ乗り始めてください。
注意点としては、自転車のサドルを高くしすぎないようにしましょう。
バランスを崩して足をついたとき膝に負担がかかってしまうので、サドルは両足が地面に着く高さに調整すると安全です。
アイシングを控える
アイシングは腫れや痛みを抑えてくれますが、同時に組織の修復を遅らせてしまいます。
この時期では腫れと痛みはかなり軽減しているはずなので、損傷した組織の回復がより重要です。
アイシングはリハビリ後だけにしましょう。
この時期の注意点
膝の痛みが落ち着き、少しずつ大きく動けるようになります。
急に運動強度を上げ過ぎてしまうと膝への負担が強くなり、前十字靭帯を再断裂する危険性もあります。
運動強度には十分注意して、段階的にリハビリを進めていきましょう。
前十字靭帯手術後5〜9週目のリハビリ
前十字靭帯の手術をしてから1ヶ月以上が経ったこの時期では、膝関節の完全な可動域と筋力強化が目標になります。
この時期の目標
- 膝関節屈曲可動域: 140度
- 下半身の筋力強化
膝関節屈曲の完全可動域
手術後に硬くなっていた膝も2ヶ月ほどで手術前の可動域に戻ります。
膝関節の屈曲可動域を確認するときは、うつ伏せに寝て膝を曲げ、誰かに足首を押してもらいましょう。
かかとがお尻につくことができれば、屈曲の最大可動域となります。
下半身の筋力強化
前の時期から始めた自重トレーニングを、重りを持ちながら行って筋力を高めましょう。
スクワットやランジはダンベルやケトルベルといったウエイト器具を持つと良いでしょう。
また、膝まわりの筋肉に限らず、臀部やふくらはぎにある筋肉も忘れずに鍛えましょう。
ケトルベルスクワット
ステーショナリーランジ+ダンベル
この時期の注意点
膝の筋力がついてきてより重い負荷でトレーニングを行うことができるようになります。
しかし、片足での運動はまだ控えるようにしましょう。
膝がより安定してバランスを崩すことなく身体を支えられるようになるまでは、片足スクワットなどの運動はまだ早いです。
前十字靭帯手術後10〜13週目のリハビリ
前十字靭帯の再建手術から10週が経ったころから、よりスポーツに近づけた動作を行います。
スポーツをしていない人は、日常生活に合わせたリハビリをしましょう。
この時期の目標
- ジョギングの開始
- スポーツ動作の習得
- 日常動作の習得
- バランス能力の向上
- コーディネーション能力の向上
ジョギングの開始
この時期から少しずつ走ることができるようになります。
まずはスピードを上げずに、痛みなく綺麗なフォームでジョギングができることを目指しましょう。
最初はその場での足踏みから始め、問題がなさそうならジョギングに挑戦しましょう。
久しぶりに走るのは少し怖いと感じる人が多いので、無理をせずゆっくり始めてください。
スポーツ動作の習得
スクワットやランジなどの全身運動によって筋力を上げるのは非常に大切ですが、自身のスポーツに合わせた動作の習得も不可欠です。
特に病院のリハビリ室だけで治療を終わらせてしまう人は、スポーツ特有の動きに対するリハビリをしないまま競技に復帰することがあります。
スポーツをしているときの動作は膝への負担が非常に高いので、各競技に合わせたリハビリをしなければ前十字靭帯を再断裂するリスクが高くなってしまいます。
自分がやっているスポーツの特徴に合わせた運動をリハビリに取り入れましょう。
片足スクワット
スポーツ中に片足だけで立っている瞬間は意外に多いです。
ランニング、サッカーのボールキック、バスケのレイアップなど、非常に多くの場面で片足立ちをしています。
もちろん両足で立っているときに比べて片足の方が膝への負担が高く、バランスも崩しやすいです。
片足でスクワットを行い、自分の体重をしっかり支える力をつけることが大切です。
サイドランジ
サイドランジとは、横方向へのランジ動作です。
テニスやバレーボールなどの球技では、飛んできたボールに対して片足を横に出して反応する場面が非常に多いです。
左右に一歩踏み込んだときに、膝を安定させられるように練習しておきましょう。
日常動作の習得
普段の生活においても、膝に負担のかかる動作は非常に多いです。
スポーツ動作のリハビリに加えて日常動作のリハビリも行いましょう。
ステップアップ
階段を登る動きのリハビリに最適なトレーニングです。
台に片足を乗せてから身体を持ち上げ、逆足を前に出します。
慣れてきたら手に重りを持って負荷を上げてみましょう。
坂道歩行
平坦な道だけでなく、坂道の歩行にも挑戦してみましょう。
坂道を上がるときには、平な道よりも膝を大きく曲げないと歩きにくいです。
下り坂では逆に、前足に体重がかかりやすくなるので、自分の重心をコントロールする必要があります。
バランス能力の向上
スポーツではバランス感覚も重要な身体能力のひとつです。
バランスが悪いと膝を再び怪我してしまう危険もあるので、必ずリハビリするようにしましょう。
まずは両足でのトレーニングから始めて、バランスが取れるようになってから片足のトレーニングに移りましょう。
タオルやバランスクッションの上でスクワットを行ったり、片足立ちを行うリハビリが初期のバランストレーニングに最適です。
コーディネーション能力の向上
コーディネーションとは日本語で”協調性”と言います。
少し意味が分かりにくですが、動きのスムーズさやリズム感と言うとイメージしやすいかと思います。
スポーツ競技によって必要なコーディネーション能力は異なりますが、どの競技にも取り入れやすいのはラダートレーニングです。
足の運び方や、素早い動き、リズム感を同時に練習することができます。
ラダーは非常に多くのステップ方法があるので、簡単なものから少しずつ強度と難易度を上げるようにしましょう。
この時期の注意点
スポーツ動作のリハビリが始まるということは、それだけ膝への負担も増えるということです。
手術した靭帯はまだ断裂する危険性が高い段階なので、注意しながら安全にリハビリを進めましょう。
運動強度は少しずつ上げて大丈夫ですが、膝がねじれる動きは避けるようにしましょう。
前十字靭帯手術後14〜17週目のリハビリ
手術から3ヶ月が経過すると、ランニングを始めとした強度の高いスポーツ動作を練習します。
運動強度を上げながら、少しずつ競技特性に応じた動きに近づけましょう。
この時期の目標
- ランニングの開始
- ジャンプ動作の開始
- 方向転換の練習の習得
ランニングの開始
前の期間からジョギングを開始していると思いますが、少し速度を上げたランニングを始めます。
まずは全力の40%から始めて、50%、60%と少しずつ速度を上げていきましょう。
注意点としては、急な加速と減速を行わないことです。
早いスピードで走ることよりも、急激な加速と減速の方が膝への負担が高くなります。
少し長い距離をとって徐々に加速し、止まるときも少しずつ速度を落としてから停止するようにしましょう。
ジャンプの開始
この時期には膝も安定し、筋力もついているはずなのでジャンプも行うことができます。
ジャンプ動作では、跳ぶときよりも着地するときの方が膝への負担は高くなります。
なので、最初にジャンプ動作をリハビリするときは、ボックスジャンプから始めましょう。
両足で踏み切ってステップなどに跳び乗り、降りるときは怪我をしていない足で降りるようにします。
慣れてきたら両足でステップに乗り両足で降りる、次はその場でスクワットジャンプという順番でリハビリを進めると良いでしょう。
ボックスジャンプ
方向転換の練習
切り返しや方向転換など、スポーツ中に向きを変える動作が最も前十字靭帯を損傷しやすい動作になります。
なので、方向転換が安全に行えるように少しずつリハビリしていきましょう。
まずは反復横跳びのような左右の切り返し動作から始め、次にジグザグ走のような角度のある切り返し動作を練習します。
このような切り返し動作を行うときは、膝が内側に入り過ぎないように注意しましょう。
この時期の注意点
スポーツ動作は膝にねじれる力がかかりやすく、前十字靭帯へのストレスも高くなります。
膝関節の構造上、”ねじれることを防ぐ”というのは不可能なので、“ねじれ過ぎない””ねじれても安定している”動きを目指しましょう。
前十字靭帯手術後18週以降のリハビリ
リハビリも終盤になると、ほぼ全てのスポーツ動作を行うことができます。
あとは動きの質と最大パワーを高めながら、安全にスポーツ動作が行えることを目標にします。
記事の内容
- 最大筋力の獲得
- カッティング動作の習得
- プライオメトリクス
最大筋力の獲得
筋力が高いほど膝の安定性も上がります。
競技復帰するための目標としては、怪我をしていない足に対して90%ほどの筋力まで回復させましょう。
レッグエクステンションやレッグカールなどのトレーニングマシンの負荷で比較しても良いですし、片足スクワットを連続で行える回数、片足ジャンプの高さや距離といったスポーツ動作の比較も大切です。
この時期になると関節可動域に制限はなく、スムーズな膝の動きを行えていると思うので、高重量の負荷をかけたウエイトトレーニングでしっかり鍛えましょう。
カッティング動作の習得
サッカーやバスケでは片足を地面につけた状態で急な方向転換を行うカッティング動作が頻繁に使われます。
片足荷重の状態で膝にねじれるストレスがかかるため、前十字靭帯への負担が非常に高いスポーツ動作です。
競技復帰するためには、必ずカッティング動作が安定して行えるようにしましょう。
リハビリではあえて膝をひねった状態での片足ジャンプや、横に一歩跳んでからのスプリントなどを練習すると良いでしょう。
プライオメトリクス
プライオメトリクスとは、高いジャンプなど爆発的な力を発揮するためのトレーニングです。
スポーツにをする上でジャンプ動作はほぼ全ての競技で必要とされる動きです。
高く跳べれば跳べるほど競技パフォーマンスも向上し、ジャンプ自体も安定します。
複数のハードルを連続ジャンプで跳び越えたり、段差から降りてすぐにジャンプするデプスジャンプのようなトレーニングを行いましょう。
デプスジャンプ
この時期の注意点
トレーニングの負荷が上がるほど膝への負荷は高まります。
前十字靭帯にストレスがかかりすぎないように正しいフォームで動きましょう。
また、ジャンプ系のトレーニングが増えてくると、ジャンパーズニーや膝蓋靭帯炎が発症する可能性があります。
リハビリ後はセルフマッサージなどで疲労がたまらないように気をつけてください。
スポーツ復帰に向けて
4〜5ヶ月間のリハビリが順調に進むと、ほぼ全てのスポーツ動作を行えるようになっているはずです。
スポーツ復帰に向けた最後のリハビリはより強度が高く、かつ対人でのトレーニングを行いましょう。
一般的な病院内でのリハビリでは、この”スポーツに復帰するためのリハビリ”をあまり行わないことが多いです。
より安全に競技復帰するためにも、自分のスポーツに限りなく近い動作と強度のリハビリを行ってから練習に合流しましょう。
具体的にはこのようなリハビリを行います。
- 対人トレーニング
- 実践形式のトレーニング
対人トレーニング
前十字靭帯を損傷しやすい球技系のスポーツはほとんど対人競技です。
これまでのリハビリは自分のペースやタイミングで動いていましたが、実際の競技では相手の動きに対してリアクションをしたり、身体がぶつかったりします。
自分ではコントロールできない”相手の動きに対応する”というリハビリは、練習に復帰する前に必ず確認すべき項目です。
リアクションドリル
目の前に対戦相手がいるときに、相手の動きに合わせて動かなければいけない場面は多いです。
例えばサッカーやバスケのディフェンスでは、攻めてきた相手が進む方向に自分も身体を動かさなければいけません。
また、相手はこちらをかわそうとフェイントをかけてくることもあるので、フェイントに引っ掛からずに素早く相手を追う能力も必要です。
リハビリでは、実際の競技に近い動きを行うと効果的です。
サッカー選手のリハビリの場合は、トレーナーがドリブルして選手に近づき、左右どちらかにドリブルで抜きましょう。
選手は抜かれないように素早く反応し、トレーナーの行く手を阻みます。
リハビリの初期段階では、あらかじめ選手にどちらの方向に行くか伝えてから行うと安全です。
慣れてきたら左右どちらに行くかランダムに決めて、選手の反応速度を鍛えましょう。
接触トレーニング
多くのスポーツでは対戦相手と身体がぶつかり合います。
身体がぶつかったときに怪我した足でしっかりと身体を支えることができないと、再び前十字靭帯を怪我してしまう可能性があります。
なので、練習に参加する前に身体を接触させる練習をすることが重要です。
例えばバスケ選手のリハビリでは、実際に1on1を行いましょう。
いきなり身体を接触させるのが不安なときは、トレーナーがバランスボールを持った状態で選手にぶつかると、接触トレーニングを導入しやすいです。
慣れてきたら実際の競技に近い強度で行いましょう。
オフェンスよりもディフェンスの方が、対戦相手に合わせた動きをしなければならないので難易度が高くなります。
接触トレーニングをする場合は、オフェンスの練習から始めてからディフェンス練習を加えるようにしましょう。
実践形式のトレーニング
対人での接触トレーニングに慣れてきたら、より実践的なリハビリも行いましょう。
実践的というのはより試合に近い強度と内容のトレーニングという意味です。
サッカーではセンタリングからのセットプレーやコーナーキックに対するディフェンス、バスケでは3on3のような試合に限りなく近い練習です。
試合に近い強度の動きをして不安感がなくなると、選手とトレーナーの両方とも競技復帰に対して精神的にも準備ができるようになります。
必ず練習に復帰する前に、同じような運動強度のリハビリを行うようにしましょう。
この時期の注意点 練習に合流する前に、リハビリで高強度のトレーニングをすることは非常に大切です。
大怪我から復帰ときは選手本人だけでなく、トレーナー、監督、チームメイトなどクラブ全員が不安に感じます。
だからこそ、選手が激しい動きができることをチームメイトに見せることで、皆が安心して復帰を受け入れてくれるようになります。
パフォーマンスの低い状態で復帰しようとしたら、チームメイトも一緒に練習することが不安になり、練習の質が下がってクラブに迷惑をかけることになってしまいます。
決して中途半端な身体で競技復帰せずに、どのような動きにも不安のない完全な状態に戻ってから復帰するようにしましょう。
競技復帰の目安
長いリハビリ期間を終えて、怪我した足がしっかり治ったか不安に感じると思います。
スポーツ現場では前十字靭帯のリハビリから競技復帰する際の目安にすることができるチェックがあるので2つほど紹介します。
ホップテスト
非常にシンプルですが、筋力の回復具合がわかりやすいテストです。
テスト方法はとても簡単です。 片足で前に3歩ジャンプした距離を測り、怪我した足と逆足の差を比べます。
差が小さいほど筋力が回復したと判断できます。
膝関節の筋力測定
病院などにある特別な測定器具が必要ですが、両膝の筋力を測って数値で比較することができます。
膝の伸展と屈曲におけるパワーを数値化することで、より左右差を明確に比べることができます。
この検査では、怪我した足が逆足に比べて90%以上の筋力があると、安全に競技復帰できると考えられることが多いです。
注意点
以下の論文の報告によると、筋力が回復しても動きの”質”までは回復していないことがあるそうです。 ホップテストで左右差がなくても、ジャンプの動きを見ると膝関節がうまく使えていないことがあるようです。 競技復帰するときには、筋力の左右差を少なくするだけでなく、動きの質まで改善させることが大切です。
>> 前十字靭帯再建手術後は筋力だけでなく、動きの”質”まで回復させる
まとめ
前十字靭帯再建手術後のリハビリは長期にわたりますが、再断裂してしまわないように丁寧に正しく行いましょう。
受傷直後の応急処置から競技復帰するまで、それぞれの時期に適したリハビリを行うことが重要です。
慎重になりすぎず、負荷を上げすぎずに段階的なリハビリを組み立てましょう。
また、スポーツに復帰する前に、必ず十分な筋力と自分のスポーツに応じたリハビリを終えてから復帰するようにしましょう。
再断裂のリスクを減らすだけでなく、選手自身も安心してスポーツを再開することができます。
前十字靭帯損傷に関してより詳しく知りたい人はこちらをご覧ください。
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