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Case Study 症状別事例

2021.06.03

トレーニング

オフシーズンの練習量、BMIとシーズン中に怪我をするリスクの関係性

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。専門は"病院で治らなかった身体の痛み"のリハビリ。

今回紹介する論文はオフシーズン中の練習量とBMIがシーズン中に怪我をしてしまうリスクに与える関係性について研究されたものです。

Brumitt J, et al.(2020)“Off-Season Training Habits and BMI, Not Preseason Jump Measures, Are Associated with Time-Loss Injury in Female Collegiate Soccer Players”

大学の女子サッカー選手を対象とした研究で、論文の結論は以下の通りです。

怪我のリスク
  • BMIが高い選手: 2倍
  • オフ中の練習量が少ない選手: 2倍
  • BMIが高くてオフ中の練習量が少ない選手: 3倍

論文の概要

簡単に論文の概要を紹介させていただきます。

これはアメリカで行われた研究で、2つの目的が調べられました。

  1.  シーズン前のフィジカルテストと怪我の関係
  2.  オフ中の練習量、体組成と怪我の関係

被験者は119名の女子サッカー選手で、大学女子サッカー3部リーグに所属しています。  

シーズン前に選手たちから以下の情報が集められました。

  • 年齢
  • 身長
  • 体重
  • 6週間分のトレーニング内容

トレーニング内容についてはどのような運動を何時間行ったか?を聞かれています。

選手は心肺系、ジャンプ系、ウエイトトレーニングなど細かく分けて報告しました。

問診が終わった後に以下のフィジカルテストが測定されています。

  • 立ち幅跳び
  • 片足ホップ

以上のデータを集めたあとは、4ヶ月に及ぶシーズン中に怪我をする度に、チームのトレーナーから報告を受けています。

ここで重要なのが、怪我として認められたのは”非接触”の怪我だけです。

打撲など第三者が原因で起こった怪我はデータとして使われませんでした。

接触時の怪我も入れてしまうと、集めたデータに対する怪我のリスクが正確に調べられないためです。

非接触時の怪我として代表的なものは肉離れです。

肉離れなど、自分自身の動きで身体を痛めてしまう怪我を予防するための情報として、この研究結果を活用していただきたいです。

そしてもう一つ、怪我をして1回以上練習を休んだ場合のみ、怪我として扱われました。

練習中に痛めたけど少し休んで練習に戻った、という場合は怪我として数えられませんでした。

4ヶ月のシーズン中が終わったとき、119名のうち36名が怪我をしました。

この怪我をした選手たちの特徴を調べ、怪我のリスク要因をまとめた結果が以下のとおりです。

BMIの高い選手が怪我をするリスクは2倍

シーズン前に調べたBMIの結果から、統計学を使って全体を2つのグループに分けました。

BMIのグループ分け
  1. BMIが21.5以上
  2. BMIが21.5以下

このグループ間で怪我のリスクを調べたところ、BMIが21.5以上あるグループは、BMI21.5以下のグループに対して怪我のリスクが2倍という結果が出ました。(Relative Risk 2.0)

シーズン前に身体の準備ができていると怪我をしにくいという、予想通りの結果かと思います。

オフ中の練習量が少ない選手が怪我をするリスクは2倍

こちらもオフシーズン中の運動量をもとに、統計学を使って2つのグループに分けられました。

オフ練習量のグループ分け
  1. 1週間に14.75時間以上
  2. 1週間に14.75時間以下

このグループ間で怪我のリスクを比較したところ、1週間に14.75時間以下の練習量だったグループが怪我リスクをする確率は2倍という結果が出ました。(Relative Risk 2.6)

こちらもBMIと同じで、シーズンに入る前に十分な練習をしていると、シーズン中に怪我をしにくい身体になるようです。

BMIが高くてオフ中の練習量が少ない選手が怪我をするリスクは3倍

そして最後の検証結果です。

シーズン中に怪我のリスクが上がる特徴を両方持っている選手と、そうでない選手をグループ分けしました。

2つの特徴でグループ分け
  1. BMIが21.5以上かつオフ練習量14.75時間以下
  2. 上記に当てはまらない選手

このグループ間で比べてみると、2つの特徴を両方持つ選手が怪我をするリスクは3倍に上がりました。(Relative Risk 3.1)

BMIが高い、シーズン前の練習量が少ないだけでも2倍という怪我の発生率がありましたが、2つの要因が合わさることで3倍にまでリスクが増加することが報告されています。

オフシーズン中にしっかり休むことも大切ですが、次のシーズンに入るまでに準備を怠ってしまうと、シーズン中の怪我へと繋がってしまう危険があるということですね。

論文の考察

今回の論文ではシーズン前に身体の準備ができていないと、シーズン中に怪我をするリスクが大きく増加してしまうという結果が発表されました。

これは誰もが予想できる結果かもしれませんが、リスクの増加率が2倍、3倍にまで上がることが衝撃的でした。

ただ、この論文でも以下の疑問が残っています。

フィジカルテストは影響が見られなかった

シーズン前に行われた立ち幅跳びと片足ホップの結果は、怪我のリスクに繋がる関係性が見られませんでした。
一般的に考えると、テストの結果が良かった選手の方がシーズン中の怪我も少ないと思われます。

オフシーズンの練習は自己申告

オフシーズンにどのような練習を何時間行ったか、という選手からの報告は全て自己申告です。
本当に練習したのか?実際より多めに報告していないか?など疑問が残ります。
正直なところ、大学生がオフ中に1週間あたり平均15時間も練習するのは少し難しいかもしれません。

所属チーム間での違い

研究に参加した119名の選手は6つの異なるチームに所属しています。
それぞれのチームでオフシーズンの過ごし方は異なると思うので、研究結果にも影響している可能性があります。
怪我をした36名の選手たちにも、クラブごとの偏りがあるかもしれません。

今回の論文も、あくまで一つの研究結果として受け取ることが重要です。

この記事が少しでもスポーツ選手のオフシーズンの過ごし方の参考になれば幸いです。

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