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Case Study 症状別事例

2021.07.12

足首の捻挫

足首の捻挫から競技復帰するための評価項目

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。専門は"病院で治らなかった身体の痛み"のリハビリ。

今回紹介する論文は“Return to sport decisions after an acute lateral ankle sprain injury: introducing the PAASS framework—an international multidisciplinary consensus”です。

足首の捻挫に関する論文は数多く発表されていますが、”捻挫から競技復帰する際の評価基準”に焦点を当てた論文は見かけたことがありません。

FIFAのメディカル部門がこの論文を紹介していたので読んでみましたが、非常に興味深かったです。

世界中の有識者119名へアンケートを行い、”足首の捻挫から競技復帰するために確認すべきこと“を、PAASSという頭文字でまとめています。

足首の捻挫から競技復帰するためのPAASS評価項目

本文ではPAASSがどのように決められ、どこに注意すべきかを説明しています。

足首を捻挫してから競技復帰する際のチェックリストとして、”PAASS”を活用していただければと思います。

論文の概要

この論文の目的は、”足首の捻挫をしてから競技復帰するために必要な評価基準を作る”ということです。

足首の捻挫はスポーツで最も多くみられる怪我で、捻挫に関する論文は数多く発表されています。

しかし、その多くは診断方法や治療法などで、”いつスポーツを再開していいのか?”という指標は作られていません。

そこで今回の研究者たちは、競技復帰に必要なチェックリストを作ろう、ということでこの論文が書かれました。

この論文を作成するにあたり、著者は世界中の有識者119名にアンケートをお願いしました。

理学療法士、アスレティックトレーナー、医師などスポーツ選手に関わっている方々に、「足首の捻挫から競技復帰するときに○○はチェックするべきか?」という質問を35項目用意し、それぞれに“Yes”“No”で回答してもらいました。

70%以上の同意率で確定とし、合計3回のアンケートで必要な評価項目不必要な評価項目に分けられました。

“Yes” 70%以上 ➡︎ 必要な評価
“No”  70%以上 ➡︎ 不必要な評価

必要な足首捻挫の評価

以下の16項目が有識者から70%以上の同意率を得て、競技復帰に必要な評価項目として挙げられました。

  1. スポーツ特有の運動
  2. スポーツ中における痛みの程度
  3. 足首の可動域
  4. 足首の筋力
  5. ホップ
  6. 敏捷性
  7. 最初から最後まで練習に参加する
  8. ジャンプ
  9. 直近24時間の痛み
  10. 選手自身の足首に対する安心感や自信
  11. 固有受容感覚
  12. 選手自身の足首に対する安定性の感覚
  13. 心理的な準備
  14. 足首の筋持久力
  15. 動的な姿勢の制御/バランス
  16. 足首の筋パワー

不必要な足首捻挫の評価

以下の17項目は競技復帰の指標としては必要ないのではないか?と判断されました。

あくまで”競技復帰のための判断”に必要かどうかという目線で決められています。

  1. 画像診断における靭帯の状態
  2. 直近1週間の痛み
  3. 触診における痛みの強さ
  4. 健康に関連する生活の質
  5. 股関節と膝の筋持久力
  6. 足首の筋肉の長さ
  7. FMS
  8. 有酸素運動
  9. 無酸素運動
  10. 靭帯の緩さ
  11. 足関節の関節運動検査
  12. 足首の筋肉の反応速度
  13. 急性期/慢性期の運動量
  14. 下肢と体幹の運動学
  15. 股関節と膝の筋力
  16. 足部のバイオメカニクス
  17. 直線のランニングスピード

どちらにも決まらなかった評価項目

以下の2項目に関しては意見がまとまらず、必要とも不必要とも言えないと結論付けられました。

  1.  関節内の腫れ
  2.  静的な姿勢の制御/バランス

研究結果の考察

必要、不必要と分類された評価項目に対して、著者の意見も交えながら考察していきます。

スポーツ競技に必要な機能

まず、有識者に同意された項目で重要視されたのは、スポーツ競技に必要な機能の評価です。

病院での治療とは違い、スポーツ現場では競技復帰に必要な状態まで捻挫を回復させる必要があります。

そのためには、”ホップ”や”ジャンプ”などスポーツ特有の動作の確認が必要だと判断されました。

一方で、”画像診断による靭帯の状態”や”触診による痛みの強さ”のように、臨床現場で使われる評価項目は不必要と判断される傾向になりました。

これらの項目は競技復帰への指標というよりは、“診断”に必要な評価として判断されました。

競技復帰に必要なチェックとしては、スポーツ動作に特化した評価が必要だと結論付けられています。

再受傷リスクの評価

“練習にフルで参加する”という項目が87%で同意されているように、捻挫の再受傷リスクを抑えるための評価も重要視されています。

他にも、”動的な姿勢/バランスのコントロール”という項目もあり、競技に耐えうる身体機能を獲得することが求められています。

「復帰してすぐ怪我をしたらどうしよう」という不安を解消するために、少しでも再受傷リスクを減らしてから競技復帰することが大切です。

評価はできる限りスポーツ動作で行う

不必要な評価として同意された評価項目の中には、”股関節と膝の筋力”のように評価の必要性が感じられる項目も存在します。

著者はこれらの項目について、個別に行わなくてもスポーツ特有の動きを評価すれば確認できるのではないか、と記しています。

例えば下肢の筋力に関しては、ホップやジャンプの評価で判断することができます。

“膝の筋力”という局所的な評価よりも、”ジャンプ”という、よりスポーツに近い動作で評価することの重要さを示しています。

PAASS

以上の有識者によるアンケート結果のまとめとして、”PAASS”という頭文字で構成された評価項目が作成されました。

評価が必要と判断された項目の中でも、重複している内容はまとめられました。

足首の捻挫から競技に復帰する際には、これらの評価項目を確認することが、安全に競技復帰するための指標になりそうです。

今回の論文はあくまで足首の捻挫から競技復帰するための指標なので、他の怪我ではまた異なる評価項目が必要になります。

しかし、これらの評価項目はほとんどの怪我に対して応用の効く内容となっているので、非常に参考となる内容ではないかと思います。

足首の捻挫の原因や治療に関する情報は、以下の記事に詳しく書いてありますので、ぜひご活用ください。

また、足首捻挫のリハビリに関してはこちらの記事に詳しく書いています。

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