2023.09.26
足首の捻挫
足首の捻挫
執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)
ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。
足首の捻挫はスポーツで最も多くみられる怪我です。
このページでは神戸三宮で活動するスポーツトレーナーが、このようなお悩みを解決するための最新情報をまとめています。
記事の内容
- 足首の捻挫に関する最新情報を知りたい
- 足首捻挫の治し方を知りたい
足首の捻挫は怪我の中でも軽視されやすく、「捻挫は治療しなくてもすぐに治る」と考える人も少なくありません。
しかし、捻挫を正しく治療しないと、足首に不安定感や慢性的な痛みなどの後遺症が残ってしまいます。
たかが捻挫と考えずに、適切な治療とリハビリで痛みの改善から再発予防までしっかり取り組みましょう。
この記事を読み終えると足首捻挫への理解が深まり、治すためには何が大切か?ということがわかるようになります。
ぜひ正しい知識を身に付けて、1日でも早い痛みの改善に役立ててください。
足首の捻挫とは?
足首の捻挫はスポーツ中の怪我だけでなく、日常生活でも頻繁に起こる怪我です。
そもそも”足首を捻挫する”とはどのような状態なのでしょうか?
身体には”靭帯”と呼ばれる組織があります。 靭帯は骨と骨を固定する役目を持つ軟部組織です。
骨同士を靭帯が程よい張力で支えているおかげで、関節は脱臼することなくスムーズに動くことができています。
靭帯はゴムのように伸縮性のある組織なので、ある程度伸ばされても傷つきませんが、あまりに強い力で伸ばされると損傷してしまいます。
このように、捻挫とは関節の可動域を超えたときに靭帯が損傷することを言います。
足首捻挫の分類
足首の捻挫は、足首を捻った向きによって2種類に分けられ、3段階の重症度で表されます。
足首捻挫の種類
足首捻挫は足を内側にひねる”内反捻挫”と外側にひねる”外反捻挫”に分けられます。
内反捻挫
最も一般的な捻挫で、足関節捻挫の80-90%は内反捻挫です。 足首の内反は内ひねりとも呼ばれ、地面に対して足首が内側に入る(小指側が地面に付き親指側が地面から離れる)ことで起こる捻挫です。
足首の外側にある靭帯が損傷し腫れてしまい、内側は骨同士の打撲が起こることが多いです。
外反捻挫
内反捻挫に比べると圧倒的に少ないですが、足首が外反方向に捻ることによって起こる捻挫です。 内反捻挫とは逆で、地面に対して足首が外に開く(親指側が地面に付き、小指側が地面から離れる)ことで起こる捻挫です。
足首内側の靭帯が損傷し腫れることが多く、外側に痛みが出ることは少ないです。
捻挫の重症度
足関節捻挫と言っても1週間ほどで良くなる軽度の捻挫から、松葉杖がないと歩けないような重度の捻挫まで様々です。 足首の捻挫は重症度別に1度から3度に分けられます。
1度損傷
- 靭帯の軽度損傷
- 少し痛みと腫れ
- 関節の緩みはない
- 体重をかけることができる
- 完治まで1-3週間
2度損傷
- 靭帯の部分断裂
- 中程度の痛みと腫れ
- 関節の不安定性
- 体重をかけると痛い
- 完治まで3-6週間
3度損傷
- 靭帯の断裂
- 強い痛みと大きな腫れ
- 関節の不安定性
- 体重をかけることができない
- 完治まで数ヶ月
また、”痛いけど歩ける”というのは捻挫の重症度が低い、というわけではありませんので注意してください。
>> “歩けるけど痛い捻挫”って大丈夫なの?
足首捻挫の症状
足首を捻挫すると、以下のような症状が見られます。
足首の痛み
捻挫で最も多く見られる症状は痛みです。 足首を捻挫した場合はこのような場所に痛みを感じます。
- 外くるぶしの周り
- 内くるぶしの周り
- 足首の前面
- 足首の後面
足首の腫れ
足首を捻挫すると靭帯が損傷しますが、このときに周辺の毛細血管も傷ついてしまいます。
毛細血管から血液が流れ出るので、痛めた靭帯の近くが腫れてしまいます。
腫れは痛みの出る場所と同じ場所にできやすいですが、特に外くるぶしの周辺が腫れやすいです。
あざ・内出血
捻挫で痛めた部位にはあざや内出血が見られることが多いです。
特に重度の捻挫によく見られ、くるぶしから足底にかけて皮膚が赤く変色します。
足関節の可動域低下
捻挫をすると、足首が思うように動かせなくなります。
可動域が低下する原因は主に2つあります。
- 痛みが強くて動かせない
- 腫れて関節が詰まる
可動域制限の強さは捻挫の重症度によって異なりますが、ひどいときには足首を全く動かせないときもあります。
足関節の不安定性
捻挫によって足首の靭帯が損傷すると、足関節が不安定に感じます。
捻挫をしていない足首と比べてゆるく感じたり、バランスが取りにくくなります。
足首捻挫の原因
足首の捻挫は、さまざまな理由で足首を捻ってしまうことが原因で起こります。
それでは、足首を捻る原因にはどのようなものがあるのでしょうか?
地面への接地・着地
歩行時に足を地面につけた瞬間や、ジャンプをして着地する瞬間は捻挫が起こりやすいです。
特に捻挫の原因になりやすいのは、足が地面に着くときに、足の外側から接地した場合です。
足首は内側に捻りやすいので、足の外側に体重が乗ると内反捻挫の原因となります。
切り返し動作
スポーツ動作の中でも特に足首を捻挫しやすい動きは、切り返し動作です。
方向転換をするときや、急に止まって走る向きを変える瞬間に、体重は身体の外側にかかりやすく足首を捻る原因となりやすいです。
柔らかい地面
芝生やグラウンドなど、柔らかい地面でスポーツを行うと、捻挫をしやすいです。
地面が柔らかいと足首が不安定になりやすいので、足を捻る原因になってしまいます。
足首への外力
足首の捻挫は自分が動きだけが原因で起こるわけではなく、外的な要因によっても捻挫することがあります。
例えば、横から誰かに押されたときにバランスを崩し、とっさに足をついた瞬間に捻挫をしてしまった、という事例を見たことがあります。
他にも、サッカーボールが足首に当たったときに、ボールの勢いが強過ぎて足首を捻挫した選手もいました。
このように、外からの力が足首に加わることで捻挫をすることもあります。
捻挫をしやすい人
これらの原因に加えて、捻挫をしやすい人の特徴にも気をつけましょう。
足首を捻挫したことがある
一度捻挫をした足首は、再び捻挫をしやすいです。
捻挫で損傷した靭帯は元の状態よりもゆるくなってしまうことが多く、そのため足首は不安定になりやすいです。
捻挫をして足首が不安定になり、より捻挫をしやすい足首となってしまいます。
捻挫が完治する前に復帰する
足首を捻挫して治療やリハビリが完全に終わる前にスポーツに復帰してしまうと、再び同じ場所を捻挫しやすいです。
軽い捻挫だと痛みは数日でなくなることもありますが、”痛みがなくなる=痛めた靭帯が治る”ということではありません
損傷した靭帯だけでなく、筋力や関節可動域を元に戻さないと、捻挫を再発する原因となってしまいます。
バランス感覚が悪い
片足で長時間立っていられない、ジャンプの着地でグラつくなど、バランス感覚が悪い人は足首を捻挫しやすいです。
スポーツや日常生活で不意にバランスを崩した時に、上手く足を出して身体を安定させることができないと、足を捻る原因になりやすいです。
疲労が溜まっている
特にスポーツ選手に言えることですが、身体に疲労が溜まっていると怪我をしやすいという研究データがあります。
同じように、試合の前半よりも後半、シーズンの初めよりも終盤戦で怪我が起きやすいです。
身体に疲労を感じる時は足首を捻挫しないように注意しましょう。
足に合わない靴・ハイヒール
例えば、自分の足よりも大きいサイズの靴を履くと、靴の中で足が動いてしまうので捻挫をしやすくなります。
また、ヒールの高い靴を履いていると常につま先立ちのような状態になるので、外から少しの力が加わるだけで内側に足を捻ってしまいます。
足首捻挫の検査方法
足首の捻挫を検査するには以下のような方法があります。
問診・触診
捻挫の診断で最も一般的で大切なのが、問診と触診です。
問診
足首の捻挫は「いつの間にか捻挫した」というケースは非常に少なく、捻挫した本人が足を捻ったことを覚えていることがほとんどです。
まず最初に、”足首の痛みは足を捻ったことが原因か?”ということを確認します。
触診
触診では痛みがどの部位にあるかを、実際に触って確認します。
足首の捻挫で痛めやすいのは以下の部分です。
- 前距腓靭帯
- 後距腓靭帯
- 三角靭帯
- 脛腓靭帯
- 距骨下関節
これらの場所を直接触ることで、痛めた組織を特定します。
レントゲン検査
足首を捻挫した際に注意したいのが、骨折の見落としです。
足首を捻ると靭帯を損傷することが多いですが、重度の捻挫では骨折が起こることもあります。
骨折の有無を調べるにはレントゲン検査が必要なので、医療機関に受診しなければいけません。
オタワアンクルルール
足首を捻挫したときに、骨折の可能性が高いかどうかを確認することができるオタワアンクルルールという方法があります。
① まず初めに、図に書かれているA〜Dの場所を触ってみて、痛みがあるか確認します。
B 内果(内くるぶし)の後部下から6cm
C 第5中足骨基部(小指の外側)
D 舟状骨
② 次に、”捻挫した直後に4歩歩くことができるか?”を確認します。
以上の5つのテストを行い、どれか1つでも痛みが出るようなら骨折の可能性が考えられるため、レントゲン検査を受けることが推奨されています。
MRI検査
MRI検査は医療機関で行われる画像検査の中で最も高度な検査の一つです。
MRI検査ではレントゲンやCT検査では見ることができない靭帯や筋肉の損傷を確認することができます。
歩くことや、体重をかけることができないほど重度の捻挫をした場合は、MRI検査を受けることも考えてみましょう。
足首捻挫の応急処置
足首の捻挫に限らず、怪我をしたらPEACE&LOVEという対処法を行うことが最新医学では最適とされています。
※ 以前はRICE処置が応急処置に勧められていましたが、これは20年以上前の理論です。
PEACE&LOVEという対処法は、怪我した直後の応急処置の”PEACE”と競技復帰に向けた”LOVE”に分けられます。
捻挫の応急処置”PEACE”
まずは応急処置のPEACEを説明します。
PEACEの頭文字を順番通りに処置することで、最適な応急処置を行うことができます。
- Protection(保護): 怪我した部位を動かさない
- Elevation(挙上): 怪我した部位を高く挙げる
- Avoid Anti-Inflammatories(抗炎症薬を避ける): 痛み止めやアイシングをしない
- Compression(圧迫): 弾性包帯で腫れを抑える
- Education(教育): 最適な対処法を患者に教える
捻挫から競技復帰までの”LOVE”
捻挫の応急処置が終わったら、競技復帰に大切なLOVEを行います。
こちらは復帰するためにどのようなことが必要か?をまとめているので、順番は気にしなくて大丈夫です。
- Load(負荷): 徐々に負荷をかける
- Optimism(楽観思考): 自信を持ち、前向きになる
- Vascularisation(血流増加): 血流を上げて回復を早める
- Exercise(運動): 身体機能を回復させる
アイシングや湿布は逆効果
少し前までは、怪我をしたらアイシングや湿布で腫れを抑えるのが当たり前でした。
しかし最近の医学では、腫れを抑えると組織の修復が遅くなると考えられています。
無理に腫れを小さくするのではなく、痛みのない範囲で関節を動かすことが最も早く正確に捻挫を治すことに繋がります。
>> 足首の捻挫に湿布は逆効果!?最新医学に基づく足首捻挫の応急処置
足首捻挫の治療
足首の捻挫を治療するときに重要なことは、怪我をしてからできるだけ早く治療を開始することです。
痛みのない範囲で足首を動かすことが、傷ついた組織の修復と早期復帰につながります。
足関節捻挫の主な治療法は以下のとおりです。
足関節の可動域訓練
足首を捻挫すると、腫れや痛みが原因で関節を思うように動かせなくなります。
しかし、関節を動かさないままにすると、組織の修復や腫れの治りが遅くなってしまいます。
痛みのない範囲で少しづつ動かすことで、徐々に関節の可動域を増やすことができます。
足首周りの筋トレ
捻挫をすると靭帯だけでなく、周辺の筋肉も損傷することが多いです。
足首の周辺についている筋肉を鍛えることで、足関節の安定性を回復させることができます。
特にふくらはぎの腓腹筋や下腿外側にある腓骨筋の筋トレが効果的です。
バランスエクササイズ
捻挫で足首を痛めると、関節内にある”固有受容器”という組織も同時に傷んでしまいます。
固有受容器は関節の位置を把握するための器官で、これが正常に機能しないとバランスが取りにくくなります。
捻挫をした後は、片足立ちなどのバランス系トレーニングを必ず行うようにしましょう。
足首捻挫のリハビリについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
>> 足首捻挫のリハビリテーション
スポーツ特有の練習
足首の捻挫から復帰するときは、日常生活で痛みを感じないことはもちろん、スポーツ動作でも痛みを感じないことを確認してから復帰しましょう。
足首を動かしたり、軽く体重をかけて痛みを感じなくても、ダッシュやジャンプでは痛みを感じることは多いです。
自分の行っているスポーツに必要な動作を100%でやってみて、痛みがなければ復帰してもいいという目安になります。
足首の捻挫をした後に練習復帰するには何を確認したらいいのか?については以下の記事で詳しく説明しています。
>> 足首の捻挫から競技復帰するための評価項目
手術
重度の捻挫の場合は靭帯が完全に断裂することもあります。
靭帯が切れた状態では関節が不安定になり過ぎて、スポーツを行うのが非常に危険になります。
そのような場合には、医師の判断で靭帯の再建手術を行うという選択肢も考えられます。
足首捻挫の再発予防
足首の捻挫はとても再発率の高い怪我です。 捻挫を再発しないためにも、必ず予防に取り組みましょう。
十分なウォーミングアップ
運動をする前に時間をかけて身体の準備を整えましょう。
入念なウォーミングアップを行うことで、関節の可動域や筋温が上昇します。
身体の準備ができている状態だと、足首の安定性やバランス能力が向上し、捻挫の予防に繋がります。
足首の筋力強化
捻挫が治ったあとも、引き続き足首の筋トレを継続することが捻挫の予防に効果的です。
足首の筋肉が正しく機能すると、万が一足を捻りそうなときも足関節を固定し、捻挫を防いでくれます。
バランス力の向上
捻挫をした後は、痛めた靭帯や筋力の回復に比べて、バランス力の回復が遅れやすいです。
捻挫を予防するためには、引き続きバランス系のエクササイズに取り組み、逆足と同じくらいバランスが取りやすくなるまでリハビリを継続しましょう。
適切な運動靴を履く
靴を選ぶときは見た目で選んだり、自分の好きな選手と同じ靴を履きたくなると思います。
しかし、スポーツを行うならデザイン性よりも自分の身体に合った靴を選ぶことが重要です。
捻挫予防のためにも、自分の足に合わせて靴を選びましょう。
テーピングやサポーター
テーピングやサポーターも捻挫の予防に効果的です。
サッカーやバスケなど、捻挫をしやすい競技のプロスポーツ選手では、ほとんどの選手が予防目的でテーピングを巻いています。
テーピングは消耗品のため費用が掛かってしまうので、必要に応じてサポーターを使用することも効果的な予防になります。
足首捻挫の後遺症
足首の捻挫は正しい治療とリハビリを受けないと後遺症が残ってしまうことがあります。
捻挫は”軽い怪我”と考えられることが多いですが、後遺症に苦しまないためにも最適な治療を受けてください。
足首捻挫の後遺症には以下のような症状があります。
慢性的な痛み
捻挫で傷ついた靭帯や軟部組織を正しく治療しないと、瘢痕組織と呼ばれるかさぶたのようなものが残り、完治しないまま治癒過程が終わってしまうことがあります。
身体にとって必要のない瘢痕組織が体内に残り続けることで、足首に慢性的な痛みが残ることがあります。
慢性的な腫れ
捻挫をすると足首が腫れることがほとんどですが、正しい治療を行わないと痛みがなくなったあとも腫れだけ残り続けることがあります。
特に、アイシングや抗炎症薬を使って無理矢理腫れを引かせようとしたときに、慢性的な腫れが起こりやすいです。
足首の不安定性
捻挫の応急処置で適切に足首を固定しなかったときに、足首が不安定なまま捻挫が治ってしまうことがあります。
捻挫した直後で足首に不安定性がみられるときは、正しい関節位置で固定することが重要です。
関節症・骨棘
足首を繰り返し捻挫してしまうと、捻挫をする度に足関節内で骨同士がぶつかるようになります。
骨同士が衝突すると、骨の表面にある関節軟骨が少しづつ削れてしまい、関節症の原因となります。
また、骨の衝突は骨棘と呼ばれる骨の変形の原因にもなり、足関節インピンジメント症候群のような怪我につながることもあります。
足首の捻挫まとめ
これまでの内容を簡潔にまとめます。 足首の捻挫とは、足首を捻り靭帯を損傷する怪我です。
足首捻挫の症状
- 足首の痛み・腫れ
- あざ・内出血
- 足関節の可動域低下
- 足関節の不安定性
足首捻挫の原因
- 地面への着地
- 切り返し動作
- 柔らかい地面
- 足首への外力
- 過去の捻挫歴
足首捻挫の治療
- 足首の可動域訓練
- 足首の筋トレ
- バランスエクササイズ
- スポーツ動作の練習
- 手術
足首捻挫の予防
- 十分なウォーミングアップ
- 足首の筋力強化
- バランス力の向上
- 適切な運動靴
- テーピング・サポーター
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