今回は運動療法が実際の利用者さんに対して、どのように治療方針を決定し、改善効果をもたらすのか、詳しく紹介していきます。
当店に実際に通っていただいた、肩こりでお悩みの利用者さんの例を丁寧に解説していくので、運動療法がどのようなものかを理解しやすいと思います。
10年以上肩こりに悩んでいた女性が、1ヶ月で痛みが半減するまでの経緯になりますので、特に肩こりに悩まされている方には、参考にしていただければと思います。
利用者さんの情報
まずは、今回運動療法を受けていただいた利用者さんの情報を、プライバシーを保護した上で紹介していきます。
- 30代女性
- 肩こり歴10年以上
- デスクワーク
- マッサージや鍼灸では治らなかった
肩こりでお悩みの方に多いデスクワークが中心の仕事という特徴がありました。
肩こりは時間が経つにつれて徐々に痛みの強さが増しており、最近では何もしていないときでも痛みを感じるまで悪化したことが、ご来店のきっかけでした。
肩こりを感じるようになってからマッサージを定期的に受けるようになられたそうですが、肩こりが悪化するにつれてマッサージを受ける時間がだんだん長くなり、費用も増えていたそうです。
マッサージを受けた直後は肩が楽になっていたようですが、効果が長く続かなかったので通うのをやめたそうです。
次に口コミで評判のいい整体院に通われました。
ここでは他の治療院ではみられないような特別な施術を行なっていたそうですが、1回の施術が非常に高額で、治療は2週間に1回しか受けられない治療院だったそうです。
3ヶ月ほど通っても肩こりが改善しなかったそうなので、新しい治療施設を探されているときに、当店を見つけていただきました。
“誰かにしてもらう”治療よりも、“自分で身体を治したい”と考えるようになったのが、当店を選ばれたきっかけだそうです。
ヒアリング
次に、利用者さんが感じている肩こりの特徴を細かくヒアリングさせて頂きました。
肩こりは仕事のある日に強い痛みが出て、休日にはあまり痛みを感じないようです。
仕事日の中でも、時間が経つにつれて肩の痛みが強くなり、終業直前が最も痛みが強くなる時間帯でした。
肩の痛みは左右差があり、右の方が強い痛みを感じていたようです。
痛みの強さを数字で表すと、右が10で左が5くらい、とのことで、右肩の痛みが左に比べて2倍ほど強いことがわかりました。
身体チェック
次に、ヒアリングに基づいた身体のチェックを行います。
この利用者さんの場合は、仕事をしていると肩に痛みが出る、仕事の後半になるほど痛みが強くなる、という点から、デスクワークが肩こりを悪化させていている原因だと推測しました。
そのため、最初は座ってパソコンを使用している状態の姿勢を確認させていただきました。
この写真を見たらわかるように、座った姿勢で背中が丸く猫背になり、首が肩に対して大きく前に出ていることがわかります。
これはストレートネックという姿勢で、肩こり患者の多くに見られる姿勢です。
首が肩の真上ではなく、前に出てしまうことで、首の後面にある筋肉が引っ張られてしまいます。
この姿勢で長時間座っていると、引っ張られた筋肉は次第に硬くなり、張ってしまうことで痛みを出してしまいます。
この利用者さんの肩こりを改善するには、“座っているときに頭が前に出ない姿勢を保つことができる身体”をつくる必要があると判断しました。
このように、同じ“肩こり”という症状でも、一人一人異なる原因が存在するので、その人の身体と生活習慣を細かく調べて原因を見つけ出すことが重要になります。
治療方針
肩こりの原因が、“座っているときに頭が前に出てしまう姿勢”だと判断しました。
次は、この原因をどのように改善していくかを考えていきます。
首や肩周りの筋肉はとても硬くなっていて、強い張りがありました。
このような状態では首と肩の関節も硬くなっていることが多いので、まずは動きを見ました。
この写真は両手を上げられるだけ上げていただいた状態ですが、両腕とも真上に上がっていないことがわかります。
肩関節に問題がなければ、両腕が耳に付くまで上げることができるはずです。
ここで、硬くなった首と肩の筋肉が関節可動域の低下を引き起こしていることも明らかになりました。
以上の身体チェックから、今回の治療方針としては、以下の点を重点的に改善することにしました。
- 頭の位置を首の真上に戻す
- 猫背になっている背中を真っ直ぐにする
- 首と肩関節の可動域を改善する
肩こりを治すためには、これらの問題点を全て改善する必要があるので、この利用者さんに適切な運動療法メニューを考えていきます。
オーダーメイド運動療法
利用者さんのお悩みをヒアリングし、体の状態を確認した上で、身体に合わせた運動療法メニューを作成しました。
ヒアリングの際にお伺いした、ご本人の希望される利用頻度が、週に3回で1回45分ということなので、ご希望の時間内で行える運動量に調節してあります。
今回は実際に最初の1週間で取り組んでいただいたメニューを全て紹介いたします。
大胸筋ストレッチ
大胸筋は胸についている大きな筋肉です。
デスクワークをしていると猫背になり、背中が丸くなります。
この姿勢が長時間続いてしまうと、胸の筋肉は縮まり、硬くなってしまいます。
猫背を直し、胸を開くためにはこの大胸筋をストレッチして、柔軟性を取り戻すことが大切です。
30秒×3セットずつ(両側)
胸鎖乳突筋ストレッチ
胸鎖乳突筋は首の前面についている筋肉です。
パソコンやスマホを見ていると、ついつい頭が前に出てしまいます。
この姿勢が続くと、首の前面にある胸鎖乳突筋が硬くなってしまいます。
この筋肉が硬く張ってしまうと、前に出た頭が後ろに戻らなくなってしまいます。
胸鎖乳突筋の柔軟性を向上させることで、頭が後ろに下がり、肩への負担を減らすことができます。
30秒×3セットずつ(両側)
胸椎モビリゼーション
これは、ストレッチポールの上に乗っかり、背骨を動かす運動です。
猫背になると、背骨の中で胸椎と呼ばれる部分が前に倒れてきます。
この胸椎を元の位置に戻すために、背中から直接押し込むような刺激を与えることで、背骨が真っ直ぐになり、猫背が改善されます。
ストレッチポールがないときは、ラップの芯にタオルを巻くことで代用することが可能です。
30秒×3セット
キャット&ドッグ
“猫と犬”というエクササイズ名のとおり、猫と犬のような姿勢を交互に行う運動です。
猫の時は背中を大きく丸め、犬の時は大きく反ります。
この姿勢を交互に行うことで、頭から腰にかけて背骨が前後に動き、可動域が改善します。
肩こりや腰痛の人は、背骨の可動域が大きく低下していることが多いので、非常に効果的な運動になります。
10回×3セット
前鋸筋アクティベーション
前鋸筋という筋肉は少しマイナーですが、肩甲骨に付着しています。
この筋肉が上手に働かないと、肩甲骨は外側に開いてしまい、猫背とストレートネックを助長してしまいます。
前鋸筋がしっかり機能することで、肩甲骨は内側に寄り、背筋が伸びるようになります。
ゴムバンドを持った状態で“前ならえ”をすることで前鋸筋を鍛えることができます。
15回×3セット
ベントオーバーロウ
このエクササイズでは肩甲骨の内側にある大・小菱形筋を鍛えることができます。
菱形筋も前鋸筋と同じく、外に開いてしまった肩甲骨を内側に引き締める効果があります。
ベントオーバーロウを猫背改善目的で行うときは、ダンベルを重くしすぎずに、引き上げた時にしっかりと肩甲骨を内側に寄せるように動くことが大切です。
10回×3セット
僧帽筋下部アクティベーション
僧帽筋は肩こりで最も影響を受ける筋肉で、実際に僧帽筋が硬くなることが肩と首の痛みに影響します。
そのため、僧帽筋を鍛えるとより硬くなって痛みが増えてしまうのでは?と考える方もいます。
しかし近年の医学では、肩こりの人が痛みを感じているのは僧帽筋の上部分にあたる上部繊維という場所で、反対に下部繊維は鍛えた方が良いという治療方針が主流です。
僧帽筋の下部繊維を鍛えることで、肩甲骨を下に引き下げると同時に、緊張しすぎている上部繊維を緩める効果も期待できます。
うつ伏せに寝転がり、肘を伸ばした状態で肩から腕を上げることで僧帽筋下部繊維を鍛えることができます。
腕の角度をそれぞれ180度、120度、90度で上げることがポイントです。
10回×1セット×3方向
上記の運動療法メニューは初めの1週間分のトレーニングです。
身体の状態が改善するにつれて、負荷を上げたりメニューを変更しています。
一度決めたトレーニングメニューに固執せずに、その時々で最善の運動メニューに更新することが大切です。
運動療法の肩こり改善効果
それでは実際に1ヶ月間運動療法に取り組んでいただいた利用者さんの、肩こりに対する改善効果を紹介させてもらいます。
効果に関しては個人差がありますので、あくまで参考としてお読みください。
まず、ご本人の感覚として肩の痛みが7割ほど改善したようです。
右肩の痛み10→3
左肩の痛み5→0
仕事中に肩の痛みが気になることはなくなり、仕事が終わった後に「少し張ってるかな」という程度にまで痛みが軽減されました。
当初の目標は、“肩こりの痛みを半分にする”と設定していたので、無事に目標を達成することができました。
そして問題だった、座っているときの姿勢です。
写真を見比べてみると、猫背が改善し、頭の位置が後ろに下がっていることがお分かりになると思います。
以前は無意識に少し俯きがちに目線が落ちていましたが、1ヶ月後には頭が上がり、前を向く姿勢へと変わりました。
背中を丸めることなく、胸を張って座れるようになったことで、普段の仕事中に肩へかかる負担が軽減し、肩こりの改善に繋がりました。
そして最も重要なことが、この身体の改善を誰かにしてもらったのではなく、ご本人が取り組んだことで手に入れたことです。
これが治療を受けて得た効果であれば、同じ施術を受け続けなければ効果はなくなり、元の身体に戻ってしまいます。
しかし、ご自身で運動をしたことによって、関節の可動域が向上し、筋力が上がったことで得られた改善効果は、すぐに消えることはありません。
身体自体を変えるには1度の治療では難しいですが、1ヶ月努力して変わった身体はその状態を長く持続させることができます。
さらに、自分はどのような運動をすれば肩こりに効果的かということがわかるので、引き続き運動を継続することで、肩こりの再発も予防することができます。
自分で自分の身体の特徴を理解し、自己管理できるようになる、ということを運動療法の最終目的に掲げているのもこのためです。
まとめ
今回は運動療法が実際に、どのような流れと考え方で人の身体を改善しているか、という全体像を紹介しました。
日本には様々な治療法がありますが、身体の問題を根本的に取り除き、身体を作り替えることで再発まで予防できる点が運動療法の長所だと思います。
肩こりに限らず、腰痛や捻挫など、幅広い病気や怪我に対して有効な治療法となっています。
誰かに治してもらうのではなく、自分で自分の身体を治し、自己管理したいという方には適した治療法だと思います。
是非、運動から健康的な身体づくりをしていただければと嬉しいです。
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