慢性的な足首不安定性による動的バランス能力と床反力の低下

2022年に東京大学から発表された論文によると”捻挫によって足首に慢性的な不安定性がある人は、片足のバランス能力が低下して地面に力強く立てなくなる”ことが報告されています。

東京大学から発表された足首の不安定性に関する論文

この研究では、慢性的な足首の不安定性がある選手に以下の特徴が見られることがわかりました。

  •  静止するまでの時間が増加
  •  最大床反力が低下
  •  最大床反力までの時間が増加

これがどのようにパフォーマンスに影響するか?を知れば、捻挫を正しい治療とリハビリで治すことの大切さがわかるかと思います。

バランス能力の低下

ゆっくり着地するようになる

床反力の低下

ダッシュ力やジャンプ力の低下

捻挫をした後に正しいリハビリをしないと足首がゆるくなってしまうだけでなく、バランス能力や片足パワーの低下といったパフォーマンスにも影響してしまいます。

後遺症を残さないためにも、正しいリハビリで捻挫を完治させることの大切さがわかる研究結果です。

捻挫によって競技力を落としたくない人は、ぜひこの記事を参考にしてください。

この記事は海外で理学療法を学んだプロのスポーツトレーナーが執筆しています。

このページの執筆者

中尾 優作 スポーツトレーナー/理学療法士

イギリスの大学、ベルギーの大学院で理学療法を学ぶ。国内外のプロスポーツクラブでトレーナーとして活動したのち、地元神戸でリハビリジム【ライフロング】を設立。トレーナー歴17年目。

主な活動場所
⚫︎ 欧州サッカークラブ
⚫︎ B.LEAGUE
⚫︎ 東京2020オリンピック

論文の概要

今回の研究は2022年に東京大学から発表されています。

大学生の男子サッカー選手を対象とした実験で、足首の捻挫による慢性的な不安定性のある足とない足で、片足着地(Single-leg drop landing)のパフォーマンスを比較しています。

実験には103名のサッカー選手が参加し、足首の状態によって以下の3グループに分けられました。

① 慢性的な不安定性のある足首

② 過去に捻挫したけど不安定性のない足首

③ 捻挫したことのない足首

これは足首ごとにグループ分けされているので、人によっては両足ともグループ1、右足はグループ1で左足はグループ3ということもあります。

実験に参加した選手は、30cmの台からフォースプレートの上に片足で着地して、5秒間バランスを保ちます。

慢性的な足首の不安定性を調べる研究の被験者

フォースプレートによって、静止するまでの時間や床反力などの数値が記録され、それぞれのグループで比較されました。

論文では2種類の比較検証がされています。

1. グループ① vs グループ②+グループ③

2. グループ① vs グループ② vs グループ③

比較の結果、上記2つに大きな差はなかったので、この記事では1のグループ①vs②+③の結果だけ紹介します。

不安定な足首は止まるまで時間がかかる

検証の結果、慢性的な足首不安定性のあるグループは、不安定性のないグループに比べて着地してから静止するまでにより長い時間がかかるということがわかりました。

”静止”の基準にはTTS(Time to stabilisation after landing)という指標が使われています。

足首の不安定性があるグループは静止するまでにTTSが0.17だったのに対し、正常な足首のグループのTTSは約半分の0.08でした。

足首の不安定性の研究結果を表すグラフ

着地時の床反力が低下する

今回の実験ではフォースプレートに着地しているので、着地時の床反力が計測されています。

床反力とは足が地面についたときに、地面から足に対してかかる力のことです。

この数値が高いほど”力強く着地している”という目安になります。

足首に不安定性のあるグループは、着地の際に床にかかる全ての方向への床反力(上下、前後、左右)で正常な足首のグループより床反力が低かったようです。

最大床反力までの時間が増加

足首の不安定性があると地面に力強く着地できないだけではなく、地面に力を伝えるためにより長い時間が必要になるようです。

着地のときにかかる床反力で最も高い数値を”最大床反力”と言いますが、この最大床反力に達するまでの時間にそれぞれのグループで差がありました。

特に下方向と前方向への床反力に対して、足首不安定性のあるグループは最大床反力に到達するまでの時間がより長くかかっています。

論文の考察

それではこの研究結果からどのようなことが考えられるか紹介していきます。

足首捻挫の後遺症

今回の実験に参加した男子サッカー選手には以下の条件が設定してありました。

  •  急性期の怪我をしていない
  •  過去3ヶ月以内に脚の怪我をしていない

そのため、選手が感じた足首の不安定性は全て”慢性的な”症状と考えれます。

慢性的な不安定性の原因は様々ですが、1番多い原因は捻挫後の不適切なリハビリか、リハビリ自体をしていないことだと思います。

捻挫の後に正しいリハビリを行わないと、損傷した靭帯が正常に修復されず、足首に緩みが残ってしまいます。

今回の実験では、このような慢性的な不安定という捻挫の後遺症は、バランス能力や地面に力を伝える能力の低下という形で残ってしまうということも証明しています。

スポーツパフォーマンスへの影響

今回発表された研究結果をひとまとめにして考えると、捻挫の後遺症がスポーツパフォーマンスを低下させる可能性があることがわかります。

まず、足首の不安定性がある選手はバランス能力が低下するので、片足で静止するためにより長い時間が必要です。

そのため、バランスを取やすいようにゆっくりと、柔らかく着地するので床への反力が低下します。

床反力が強いほど力強いダッシュやジャンプにつながるので、足首の不安定性がある人はスプリント能力やジャンプ力といったスポーツパフォーマンスも低下する可能性が考えられます。

バランス能力の低下

ゆっくり着地するようになる

床反力の低下

ダッシュ力やジャンプ力の低下

捻挫を正しくリハビリして治すということは、競技力を低下させないという点でも非常に大切ということがわかると思います。

まとめ

今回の論文では、捻挫による慢性的な足首の不安定性がある選手にはこのような特徴があることが報告されました。

  •  静止するまでの時間が増加
  •  最大床反力が低下
  •  最大床反力までの時間が増加

また、足首の不安定性が原因でバランス能力が低下し、地面からの床反力も低下することでスポーツパフォーマンスにも悪影響が出てしまうことが考えられます。

足首の捻挫はスポーツで最も多い怪我ですが、『ただの捻挫』と甘く見ずに正しい治療とリハビリを受けてしっかり完治させましょう。

足首の不安定性という後遺症を残さないことが、再び怪我する前の状態まで回復させるための鍵となります。

 

足首の捻挫に関してより詳しく知りたい方は、こちらのページをご参考ください。

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