2024.04.10
投球障害
トミージョン手術後のリハビリ
執筆大澤 亮(理学療法士)
有名なスポーツ整形外科で主に手術直後のリハビリを担当。病院で培った臨床技術を活かし、ジュニアアスリートから高齢者の運動愛好家まで幅広い年代のリハビリを得意とする。自身のスポーツ歴は野球、バスケ、カヌー。
野球選手にとって肘の怪我はどの年代においても多くの人が悩む怪我です。
最近ではトミージョン手術をすることで高い確率で復帰することができるという事もあり若い年代にも手術されることが増えてきています。
近年野球選手のニュースでよく耳にするトミージョン手術ですが実際手術後のリハビリではどのような段階を追って治療を進めるのでしょう。
記事の内容
- トミージョン手術後のリハビリについて詳しく知りたい
- 手術後の期間ごとの活動レベルを知りたい
よくトミージョン手術では復帰まで1年かかると言われています。
このことについてはニュースなどで聞いたことがある方もいるかもしれません。
この記事では、この1年という長い時間はどのような内容なのかという事を実際にトミージョン手術後のリハビリに携わった理学療法士が詳しく紹介します。
また、トミージョン手術について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
トミージョン手術後のリハビリ
手術後のスケジュール例を時系列に沿って紹介していきます。
手術後~1ヶ月
手術後~2週目
この期間はギプス固定をして安静にする期間です
この期間はギプスで完全に固定しており基本的には安静にします。
しかし、ギプスから出ている部分の運動は徐々に行います。
指を動かすことで拘縮を予防します。
グーパー体操
- 大きく手を広げて、握るを繰り返す
指数え運動
- 親指から順に指を折り小指から順に伸ばす
- 小指から順に指を折り親指から順に伸ばす
2週目~
ギプス固定をしながらの運動が増えます。
ウォーキング・下半身上半身のストレッチを開始します。
1ヶ月~3か月
この期間で可動域を左右差のない状態にします
ギプスは除去されて、肘関節・前腕・手関節の可動域訓練を開始します。
可動域訓練は主に自動運動(自分の力で曲げ伸ばし)で行います。
自動運動を開始する前にセラピストによって筋肉を緩めた状態で行います。
しっかり筋肉の緊張が取れた状態で自動運動または、理学療法士やトレーナによる可動域訓練を行います。
前腕の回内外運動
- 手のひらが上になるように前腕を回す
- 手の甲が上になるように前腕を回す
掌屈背屈
- 親指を上に向けて手首を左右に動かす
肘屈曲伸展
- 可能な範囲を自分の力で大きく曲げ伸ばしする
筋力トレーニングも徐々に開始していきます。
握力のトレーニングは特に早い段階から開始します。
重りを持たずに前腕の回内、上腕二頭筋、上腕三頭筋のトレーニングを開始します。
3ヶ月間徐々に負荷を上げながらトレーニングを進めます。
ダンベル回内外
- ダンベルを持ち親指が上方向で保持する
- 手のひらが上になるように前腕を回す
- 手の甲が上になるように前腕を回す
掌屈背屈
- ダンベルを持ち手の甲を上に向けて上下に動かす
- 手の平を上に向けて上下に動かす
バイセップスカール
- 手のひらを前方に向けてダンベルを握る
- 肘絵お最後まで曲げる
トライセプスプルダウン
- 肘を曲げた位置でハンドルを握る
- 肘の高さを固定したまま肘を伸ばす
※4週目から2週間ごとに負荷を上げます。
例)0.5㎏→1.0㎏→1.5㎏→2.0㎏→3.0㎏
4ヶ月~5ヶ月
4ヶ月目からはネットスローが可能になります。
ネットスローの強度は山なりのボールを投球する程度の強度です。
5m~25m程度のネットスローが目安です。
最初はテニスボール、軟式ボールと段階を追って硬式ボールに近づけます。
ネットスローを開始する前に地面にボールを投げたり、負荷の小さな動作から開始します。
ストレッチで手をつくストレッチが可能になります。
前腕屈筋群ストレッチ
- 四つ這いになり手のひらを体の方向に向ける
- 腰を落として前腕を伸ばす
トレーニングでの負荷も大きくなっていきます。
僧帽筋下部アクティベーション
- 四つ這いの姿勢から片腕を伸ばし反対の腕はまげて頭を乗せる
- 伸ばした手をできるだけ高く上に挙げる
ベントオーバーロウ
- ベンチ台に片手片足を乗せて反対の手でダンベルを持つ
- 肩甲骨を寄せるようにダンベルを引き上げる
ライイングトライセプスエクステンション
- 上向きに寝た状態からダンベルを垂直に持ち上げる
- 肘を曲げて伸ばす
チューブ外旋
- チューブを持ち、腕を体につけて肘を90曲げる
- 腕が体から離れないよう腕を開きながらチューブを引っ張る
バッティングではティーバッティングが可能になります。
5ヶ月~6ヶ月
5ヶ月目からキャッチボールが可能になります
キャッチボールは強度としては50%程度での力感で行います。
距離は25m~40mの距離でキャッチボールが可能です。
バッティングはフリーバッティング可能になります。
ダンベルリフトオフ
- 下向きに転びダンベルを持ち背中に手を回す
- 背中からできるだけ手を離す
重錘ボール投げ
- サンドボールを持ち肩関節90°肘関節90°でスタートする
- サンドボールを肩関節と肘関節の角度を保持したまま真上にボールを投げる
7ヶ月~8ヶ月
投手はこの時期からマウンドでの立ち投げが可能になります。
50m~70mの距離を70~90%の力感で投げられるようになります。
捕手はセカンドまでの送球
内野手はノックに入る
外野手はカットマンまでの送球が可能になります。
徐々に投球頻度、強度を増加していくが痛みや変化に注意しながら行うことが大切です。
8ヶ月~
8ヶ月で全力投球が許可されます。
投手はここからキャッチャーを座らせての投球練習を開始します。
野手は実践復帰となります。
トミージョン手術後の注意事項
トミージョン手術は高い競技復帰率を誇る素晴らしい手術ですが注意点もあります。
トミージョン手術は靭帯を再建する手術になるため細心の注意を払ってリハビリ、競技復帰をしなければ再建した靭帯が再び緩んだり怪我をしてしまう恐れがあります。
リハビリ期間が長く焦る気持ちは理解できますが焦らずしっかりとリハビリをすることが大切です。
まとめ
このような流れでトミージョン手術後のリハビリが行われます。
他にも必要な運動は多くありますが最低限これぐらいのリハビリは必要になります。
これに加えて股関節のストレッチ、体幹のストレッチなど投球に必要な可動域を広げる運動も必要になります。
トミージョン手術は手術をして終わりではなく、手術後競技に復帰するため、パフォーマンスの向上や復帰後の再び怪我をしないための体を作ることが大切です。
トミージョン手術をすることのないような身体作りが知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
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