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Case Study 症状別事例

2021.12.06

トレーニング

肥満児と健康児のランニングフォーム比較

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。

今回紹介する論文は2021年に発表された、肥満児のランニングフォームに関する研究です。


“Effects of Overweight and Obesity on Running Mechanics in Children”

アメリカで行われた実験になりますが、肥満児と健康児の走り方を比較し、どのような特徴があるか調べています。

研究の結果、肥満児の走り方には以下のような特徴が見られました。

  • 1歩が短い
  • 地面に足を着いている時間が長い
  • 股関節の屈曲が少ない
  • 足関節の内反が多い
  • 足を外側に接地する
  • 足への負担が強い

それぞれの関節や動き方の特徴を分析すると、肥満児は歩幅を狭くし、ガニ股のように少し外側に接地して走っていることがわかりました。これは恐らく、体重が重いためにバランスを崩しやすいことが原因だと思います。

さらに、体が大きいので足にかかる力も健康な子供に比べて強く、下半身を怪我する可能性が高いことにも言及されています。

それでは論文の詳細をお伝えしていきます。

論文の概要

今回の論文はアメリカで行われた研究で、肥満児と健康児のランニングフォームを比較した実験になります。

8歳から12歳の子供が42名実験に参加しています。子供たちは体重を測り、BMIによって肥満児と健康児グループに分けられました。

BMIの測定には子供向けに年齢を考慮して測られる特別なBMIが使われていて、こちらのサイトで実際に計測することができます。
“Centers for Disease Control and Prevention” 

測定されたBMIの結果をもとに、16名の肥満児グループと26名の健康児グループに分けられました。

実験内容ですが、それぞれの子供にモーションキャプチャー用のセンサーを付けて15mの直線を走ってもらいます。直線の最後にはフォースプレートが埋め込まれていて、接地したときの力も同時に測定できるようになっています。

走るスピードは一定の速度が目安にされているので、走る速さによって研究データに影響が出ないように設計されました。

それでは実験によって出されたデータを見ていきましょう。

肥満児のランニングフォーム分析

1歩が短い

肥満児グループのランニングフォームでは、1歩の歩幅が短いという特徴が見られました (0.73% vs 0.79%)。これは自分の身長に対する歩幅を表しています。

接地時間が24%長い

ランニング中は足が地面に接地している瞬間と、空中に浮いている瞬間が交互に起こります。接地している時間をスタンスフェーズ(Stance phase)と呼びますが、肥満児グループの接地時間は健康児グループに比べて24%も長かったです。(0.37 vs 0.29)

股関節の屈曲が少ない

足を地面に接地するときに、肥満児グループは股関節の屈曲(もも上げの動き)が少なかったです。

足首の内反が強い

足が地面に着く瞬間、肥満児グループの足首は内反(内側に捻る)の動きが強く見られました。

足を外側に接地する

肥満児グループの走り方には、足を外側に着くという特徴も見られました。外側に着くと言うのは、直線で歩くモデル歩きではなく、ガニ股のように足が外側に出るような走り方をしているということです。

足への負担が強い

これはランニングフォームではなく、足が地面に接地した時の力を調べた数字です。身体が大きいので当然ですが、肥満児グループの方が地面に足を着いたときの力が強かったです。

肥満児はバランスが崩れないように走る

他にも様々なデータが出されていますが、上記で紹介した数値が特に興味深いデータです。

それぞれの関節ごとに異なる特徴が見られますが、全ての特徴をまとめると、肥満児グループには”少しでもバランスを取りやすい走り方”を無意識のうちに行なっていると考えられます。

歩幅が短い
➡︎歩幅が長いとバランスが崩れやすい

接地時間が長い
➡︎足が浮いている時間が長いと、バランスが崩れやすい

股関節の屈曲が少ない
➡︎屈曲が大きいと歩幅が長くなってしまう

足首の内反が強い
➡︎体重を内側にかけた方が、バランスを取りやすい

足を外側に接地する
➡︎足を外に大きく接地した方が、バランスを取りやすい

モーションキャプチャーで観察された肥満児の走り方は、どれもバランスを崩さずに走るためのランニングフォームと考えることができます。

足への負担が強い点に関しては、体重が重い分足にかかる力が大きくなって当然です。しかし、負担が大きいということは、足を怪我する可能性が上がるということなので、注意が必要です。

肥満児が早く走るためには?

今回の研究を踏まえて、肥満児が早く走るためにはどうすればいいのでしょうか?

肥満児の走り方には、いかにバランスよく安全で転ばないように走るか、という特徴が見られました。

しかし、早く走るためには歩幅はできるだけ長い方が良く、ももを高く上げて大きなストライドで走るのが理想です。

このランニングフォームを習得するためには、長い歩幅でも安定できるバランス能力を鍛えるか、減量してバランスを崩しにくい身体を手に入れることが大切です。

特にスポーツをしている子供なら、肥満は怪我のリスクにもなります。早く走り、怪我なく練習するために、健康的な身体を目指してみてはどうでしょうか。

こちらの記事では、子供がプロのスポーツ選手になるために、トレーニングで競技力を向上することの大切さを紹介しています。

将来スポーツ選手になることを夢見ているお子さんがいらっしゃる保護者の方は、ぜひご一読いただければと思います。

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