1. ホーム
  2. 症状別事例
  3. 前十字靭帯損傷
  4. 前十字靭帯の保存療法

Case Study 症状別事例

2024.08.20

前十字靭帯損傷

前十字靭帯の保存療法

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。

a physiotherapist is treating athlete's injured knee

前十字靭帯を損傷したときは、必ずしも手術を受けなければいけないというわけではありません。

ご自身の生活スタイルや膝に求める機能によっては、手術を行わない保存療法という治療方法も選択肢の一つとなります。

このページでは、神戸でリハビリ専用ジムを運営する理学療法士が、前十字靭帯の保存療法について詳しく解説しています。

記事の内容

  1. 前十字靭帯の保存療法とは?
  2. どんなときに保存療法を選ぶ?
  3. 前十字靭帯保存療法のリハビリ

結論から言うと、スポーツ復帰を希望される場合は前十字靭帯再建手術を受けることを強く推奨します。

しかし、そこまで膝の機能を回復させる必要のない方や、手術に対して抵抗感がある方は、保存療法を選ぶことも可能です。

ご自身にとって最善の選択ができるよう、この記事を読んで前十字靭帯の保存療法のメリットとデメリットを知っていただければと思います。

前十字靭帯損傷の保存療法とは?

a person who injured his/her knee is wearing brace to protect the knee

前十字靭帯を損傷したときに選べる治療方法は、手術による靱帯再建手術か手術を受けない保存療法です。

手術をすると自身の膝にある腱という部分を新しい前十字靭帯として関節内に埋め込みます。

保存療法では新しい前十字靭帯は付けずに、靭帯がない状態で膝が安定するようにリハビリを行います。

ここで注意いただきたいのが、足首などにある靭帯と違って十字靭帯は自然治癒することが難しいと考えれられています。

あくまで靭帯がなくても膝が支えられるようにする、というのが保存療法の目的となります。

再建手術と保存療法の選び方は?

前十字靭帯損傷後の治療方針については、どこまで激しい動きをしたいかという点と、膝関節内の他の組織への負担という点が大きく関わってきます。

スポーツ復帰を目指す場合

競技レベルでなく、趣味レベルでもスポーツを楽しみたいという方は、再建手術を勧められることがほとんどです。

保存療法だとどうしても膝の緩みやぐらつきが残ってしまうことが多いので、思いっきりスポーツを楽しむということは難しくなってしまいます。

軽いジョギングや膝をあまり使わないスポーツであれば、保存療法という選択も可能です。

膝関節軟部組織への負担

前十字靭帯は膝関節を支える非常に大切な靭帯です。

これが断裂すると関節が不安定になってしまい、節内にある別の軟部組織に負担がかかってしまいます。

例えば、膝がぐらつくことで関節内にある半月板への負担は大きくなり、同時に関節軟骨への負担も増加してしまいます。

将来的な変形性膝関節症のリスクが非常に高くなってしまうので、前十字靭帯以外の軟部組織を守るという点でも再建手術は有効とされています。

前十字靭帯保存療法のリハビリ

female athlete is using leg extension machine to strengthen her quadriceps muscle

それでは実際に前十字靭帯を保存療法で治す場合、どのようなリハビリを行うかを紹介していきます。

前十字靭帯受傷直後から2週まで

腫れの軽減

前十字靭帯を損傷した直後は膝が大きく腫れてしまいます。

バンテージや圧迫タイツを着用して、膝が必要以上に腫れないように圧迫することが大切です。

痛みの軽減

受傷直後は関節内で出血が起きたり、腫れがたまることで強い痛みを感じることが多いです。

定期的なアイシングや、必要に応じて医師の指導のもと痛み止め薬などを服用しましょう。

装具の着用

前十字靭帯を損傷したら膝が不安定になります。

膝に力も入れにくくなり、膝崩れと呼ばれる症状が現れることもあります。

怪我をしてしばらくは膝に装具を着用することで膝の安定性を保つことができます。

また、必要に応じて松葉杖を使うこともあります。

前十字靭帯損傷後の装具についてはこちらの記事をご覧ください。
>> 前十字靭帯を損傷したら装具は必要?装具の良い点と悪い点、種類や値段まで理学療法士が解説

可動域改善

膝を怪我するとすぐに膝の曲げ伸ばしがやりにくくなります。

これは膝周りの筋肉や軟部組織が拘縮してしまい、可動域に制限がかかってしまうためです。

できるだけ早い段階から痛みのない範囲で膝を曲げ伸ばしするようにして、関節が硬くなりすぎないようにしましょう。

また、膝のお皿も自分で上下左右に動かすようにすると、拘縮を防ぐことができます。

筋力改善

前十字靭帯損傷直後は痛みが強いですが、少し落ち着き次第筋力トレーニングを開始しましょう。

痛みを我慢して膝を動かすのではなく、痛みなく動かせる場所から動かしていくことが大切です。

例えば、膝のお皿周りの筋肉に力を入れるお皿セッティングや、股関節を動かすストレートレッグレイズ、足首を動かすカーフレイズなどは安全に行うことができます。

  1. 足をまっすぐ伸ばしたまま、股関節から足を上げて下ろす

  1. かかとを浮かして台の上に立つ
  2. かかとを高く上げてつま先になる

膝を無理に動かさなくても膝周りの筋肉を鍛えることができるので、適切なエクササイズを選ぶようにしましょう。

前十字靭帯受傷後3週から5週まで

前十字靭帯を損傷してから数週間が経つと、徐々に痛みや腫れは落ち着いてきます。

膝を動かしても感じる痛みが小さくなってきたら、膝を安定させるためにトレーニング強度も少しずつ上げていきましょう。

バイク

a lady is using an exercise bike for her fitness work out

エアロバイクなどの運動は膝に体重をかけることなく取り組むことができるので安全です。

筋力だけでなく膝の可動域や心肺機能の改善にも効果的です。

ウォールスクワット

この時期から少しずつ膝に体重をかけながらトレーニングしていきます。

最初から全体重をかけるのではなく、徐々に体重をかけるように工夫しましょう。

  1. 壁にバランスボールを置いて背中でもたれかかる
  2. 体重をバランスボールにかけたまま、スクワットを行う
ステップアップ

階段を上る練習に効果的なトレーニングです。

階段は上りよりも下りの方が膝への負担が高いので、まずは上る練習から始めましょう。

  1. 片足を台の上に乗せる
  2. 台に乗せた足で身体を持ち上げ、元の位置に戻る
片足バランス

膝の手術をすると膝関節内にある固有感覚受容器と呼ばれる、体内のセンサーのような機能も低下してしまいます。

そのため、バランス感覚などが低下してしまうので、練習する必要があります。

最初は壁に手を置きながらで大丈夫なので、安全第一で取り組んでみましょう。

前十字靭帯受傷6週以降

前十字靭帯を損傷してから6週ほど経過すると、膝の腫れと痛みが大きく軽減します。

加えて関節可動域も制限がなくなってきたら、あとはトレーニングの負荷を上げて膝の安定性を高めていきましょう。

ステップアップ+ショルダープレス

ステップアップに慣れてきたら重りを持ってみましょう。

腕の力で重りを上げてしまわずに、足で踏み込む力を使って重りを持ち上げます。

  1. 台に足を乗せ、踏み込むように身体を持ち上げる
  2. 台に上る力を利用して重りを天井に向かって上げる
フォワードランジ

膝関節の安定性が高まってきたら、徐々に片足での運動を増やしていきます。

関節もより深く曲げることで負荷が上がり、さらに筋力を強化することができます。

  1. 大きく一歩踏み出して腰を落とす
  2. 床を前の足で強く踏んで元の位置に戻る
片足バランス(つま先タッチ)

バランストレーニングもただ立つだけでなく、動きをつけることで難易度が上がります。

  1. ① 片足で立ちバランスを取る
  2. 上体を倒してつま先を触ってから身体を起こす

前十字靭帯の保存療法まとめ

前十字靭帯損傷後の治療としては、手術だけでなく保存療法という選択肢もあります。

ご自身の生活スタイルによっては手術よりも適した治療方法となることもありますので、それぞれのメリットとデメリットを比較して決断することが大切です。

最近の研究では保存療法でも膝の機能が高く回復する見込みがあるという報告もあります。

>> 前十字靭帯断裂は3人に1人がリハビリだけで回復する可能性がある

ただし、スポーツ復帰できるレベルまで回復するかというのは疑問が残ります。

様々な観点から、最善の選択ができることを願っています。

前十字靭帯損傷についてまとめたページも参考にしてみてください。

Join Us 無料体験申込