2024.08.16
前十字靭帯損傷
前十字靭帯損傷の具体的な原因
執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)
ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。
前十字靭帯損傷は、日常生活やスポーツ中の動作が原因で起こることがほとんどです。
ニーイントーアウト(knee-in, toe-out)と呼ばれる膝の動きが前十字靭帯に最も強いストレスを与え、最悪の場合靱帯を断裂させてしまいます。
このページでは、神戸でリハビリ専用ジムを運営する理学療法士が、前十字靭帯を損傷する原因について詳しく解説しています。
- 前十字靭帯を損傷する原因は?
- どのような動作で前十字靭帯を損傷するか?
- 前十字靭帯を損傷してしまう人の特徴は?
先ほど紹介したニーイントーアウトという膝の動きが、前十字靭帯の損傷に大きく関わってきます。
この動作を理解し、どのような動作で膝がニーイントーアウトしやすいかを理解することで、前十字靭帯損傷の予防を行うこともできます。
また、性別や筋力バランスも前十字靭帯損傷の原因として考えられているので、身体的な特徴による前十字靭帯の損傷リスクも知っておくと役に立ちます。
ニーイントーアウトとは?
まず初めに、前十字靭帯に大きなストレスがかかる”ニーイントーアウト”という膝の動きを知っておきましょう。
ニーイントーアウトとは、膝が内側を向いてつま先が外側を向く膝の動きです。
専門的に解説すると、大腿骨が内旋し、脛骨が外旋する状態です。
ニーイントーアウトの状態になると、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)が捻じれてしまい、それぞれの骨に付着している前十字靭帯も捻じれてしまいます。
また、膝が内側に倒れることで、大腿骨内側顆という部分が前十字靭帯に当たってしまうことも、前十字靭帯を損傷する原因の一つと考えられています。
ニーイントーアウトが起こる要因
ニーイントーアウトという膝の動きで前十字靭帯を損傷してしまうことがわかったと思いますが、それではどのようにニーイントーアウトが起こってしまうのでしょうか?
筋力不足
膝周辺の筋力が不足していると、膝は内側に倒れやすくなってしまいます。
人間の身体は構造上、膝が内側に倒れやすくなっているので、膝関節を支える十分な筋力をつけることが大切です。
特に膝周りの大腿四頭筋やハムストリングスは大切ですが、他にも内転筋群や股関節にある臀筋群もニーイントーアウト動作を防ぐために働きます。
膝関節のゆるさ
生まれつき関節がゆるかったり、柔らかい人もニーイントーアウトが起こりやすいです。
特に女性に多いですが、関節が人よりも動いてしまう人は、より筋力をつけて関節を安定させる人用があります。
動きのくせ
何も意識しなくても無意識にニーイントーアウト動作が見られる人は多いです。
誰かに何を言われたというわけでもなく、普段の動き方で膝が内側に倒れるくせがついています。
スクワット動作や、階段の上り下りなど、何気ない動きでニーイントーアウト動作が見られる人は、前十字靭帯を損傷しやすい特徴があるので注意が必要です。
膝関節軽度屈曲位
膝がまっすぐ伸びているときは、ニーイントーアウトは起こりません。
膝が少し曲がるにつれて、膝は内側に倒れやすくなります。
そのため、サッカーやバスケなど膝を曲げて腰を落として行うスポーツでは、前十字靭帯の怪我が起こりやすいです。
足関節の硬さ
足関節が硬いと、膝は足首をかばって内側に倒れやすくなります。
特に背屈と呼ばれる足が地面に着いた状態で膝が前に出る動きでは、足首が硬いと膝が前に動かずに内側に倒れてしまいます。
臀筋の弱さ
お尻の筋肉が上手く機能しないことでも、ニーイントーアウト動作は起こりやすくなります。
臀筋の多くは股関節外旋という足を外側に開く働きがありますが、臀筋が弱いと足は内側に閉じやすくなり、同時に膝は内側に倒れやすくなってしまいます。
前十字靭帯損傷の原因となる動作
膝関節がニーイントーアウトしやすい身体の特徴を解説しましたが、次はニーイントーアウトが起こりやすい動作を紹介します。
これらの動画が前十字靭帯損傷の主な原因となるので、自分が取り組んでいるスポーツに以下の動作がある人は特に注意してください。
切り返し動作
カッティングとも呼ばれる切り返し動作は膝が非常に捻じれやすい動きです。
例えば前に走っている状態から横に方向を変えるとき、サイドステップのように横方向で動きの向きを変える動作が切り返し動作と呼ばれます。
切り返し動作を行うときは、まず片足を地面が接地します。
次に、切り返す方向に向かって身体の向きを変えますが、このときに地面に着いている足と身体が違う方向を向いてしまい、膝が捻じれてしまいます。
片足での着地
ジャンプをした後に片足で着地する瞬間もニーイントーアウトが起こりやすいです。
両足で着地する時は身体の重心が両足の間にありますが、片足で着地するときは着地した足の内側に重心が来てしまいます。
地面にある足よりも内側に重心があると身体は内側に倒れやすくなり、膝も内側に倒れてしまいます。
地面に足がついたまま膝だけが内側に倒れてしまい、結果的に膝が捻れる原因となります。
ストップ動作
ストップ動作もジャンプと考え方は同じです。
スポーツ中にストップするときは、基本的に片足で止まります。
片足だけが地面に着いている状態になるので、重心は着いた足に対して内側にきて、膝は内側に倒れやすくなります。
ピボット動作
バスケットボールなどでよく見られるピボット動作も膝が捻じれやすい動きです。
片足を地面に着いたまま身体をクルクルと回転させるので、支点となる膝には捻れるストレスがかかってしまいます。
外側からの強い衝撃
ニーイントーアウトが起こるのは自分自身の動きだけではありません。
対戦相手と接触して膝が内側に倒れてしまうことや、交通事故で膝に強い衝撃が当たることも、前十字靭帯損傷の原因となります。
これに関しては予防などが簡単にできるものではない不慮の事故での損傷と考えます。
前十字靭帯損傷に繋がる潜在的要因
これまでは前十字靭帯をどのような動作で損傷してしまうか?という原因について紹介しました。
この動作的な原因とは別に、性別や身体的な特徴も前十字靭帯損傷の原因として考えられているので解説していきます。
女性
女性の方が骨盤が広いというのは聞いたことがあるかもしれません。
骨盤が広いとそれだけ足の付け根である股関節も身体の中心から見て外側に位置しています。
これにより、男性と比べて膝がより内側に来てしまうので、自然と内股のような関節角度になってしまいます。
すると膝は内側に倒れやすくなり、ニーイントーアウトが起こりやすくなります。
太もも前後の筋力差
太ももの前面と後面の筋力差が大きすぎると、前十字靭帯損傷の原因になると言われています。
一般的な人は、太ももの前にある大腿四頭筋は後ろにあるハムストリングスよりも強いことがほとんどです。
しかし、この筋力差が大きくなりすぎると前十字靭帯損傷リスクが高くなってしまいます。
それは、ハムストリングスは前十字靭帯と一緒に脛骨の前方移動を防ぐ役割があるからです。
ハムストリングスが弱いと、脛骨の動きを止める機能も弱まってしまい、結果として前十字靭帯にかかる負担が増えてしまいます。
左右の筋力差
足の前面と後面の筋力差に加えて、逆足との筋力差も前十字靭帯を怪我する原因になります。
例えば右足に比べて左足の筋力が大きく低下している状態でスポーツを行うと、左右均等に動して負荷をかけても、筋力が弱い左足への負担は大きくなってしまいます。
筋力差があればあるほど弱い方にかかる負担は増えてしまうので、怪我のリスクも必然的に増加してしまいます。
体幹の弱さ
体幹と呼ばれる腹筋、背筋、骨盤周りの筋力低下も前十字靭帯損傷の原因になり得ると考えられています。
例えば片足で立っているとき、体幹部分が安定していないと身体がブレて下半身も不安定になります。
そうすると膝がニーイントーアウトしてしまう可能性は高くなります。
安定した体幹を手に入れることで、下半身の怪我のリスクを減らすことができます。
膝の過伸展
過伸展は反張膝とも呼ばれます。
特に女性や体操選手、バレエダンサーに多い特徴ですが、膝が最大可動域よりも大きく伸び過ぎてしまうことを言います。
膝が伸び切るまでなら大丈夫ですが、それ以上に伸びる過伸展までいってしまうと、前十字靭帯まで伸ばされてしまいます。
実際に、ダンスの開脚跳びで膝を伸ばし切った際に前十字靭帯を断裂してしまったという方は多いです。
演技を美しく見せるために不可欠な動きですが、前十字靭帯を守るための安定性もつけるようにしましょう。
まとめ
前十字靭帯損傷の原因には多くの要素があります。
まずは前十字靭帯への負担が強いニーイントーアウトという動きを理解し、どうすれば膝が内側に倒れにくくなるのか、を考えましょう。
そして、前十字靭帯を損傷しやすい動きや身体的特徴を把握した上で、少しでも膝への負担を減らしてあげることが、前十字靭帯を損傷する可能性をあげることに繋がります。
前十字靭帯に関してより詳しい情報を知りたいときはこちらの記事をぜひご覧ください。
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