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Case Study 症状別事例

2021.06.30

肉離れ

ハムストリングス肉離れの効果的なリハビリ

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。専門は"病院で治らなかった身体の痛み"のリハビリ。

今回はハムストリングス肉離れのリハビリについて書かれている論文を紹介します。

この論文はハムストリングスのリハビリで使われている治療法から、専門家の推奨する治療法を紹介しています。

Narrative reviewという種類の論文なので、著者のバイアス(先入観)が入っていることを考慮して読んでください。

それを踏まえた上でも、ハムストリングス肉離れのリハビリに関する全体像と最新の考察を学ぶことができる、興味深い論文になっています。

論文の目的

肉離れのリハビリに関する論文の写真

ハムストリングスの肉離れはスポーツ界で頻繁に起こる怪我です。

肉離れは、ハムストリングスの怪我の中で一番多く発生する傷害でもあります。

この肉離れを治療し安全に競技復帰するためには、どのような処置、治療が効果的かということを、”著者のおすすめ度”で比較した論文になっています。

このおすすめ度は著者同士の話し合いで決められ、A, B, Cの三段階で紹介されています。

A 質の高いエビデンス
B 限定的なエビデンスがある
C エビデンスの質が低い

ただ効果的なリハビリを勧めているのではなく、論文のエビデンスレベルを考慮した上での根拠ある提案となっています。

この論文を発表した著者は、オーストラリアの大学教授、アメリカのトレーナー、アメリカの理学療法士で、多角的な知見から話し合いが行われたことが伺えます。

ただ、あくまで著者4名の決定した“おすすめリハビリ法“であることは変わりません。

情報を100%鵜呑みにするのではなく、専門家の情報をもとに自分のリハビリを見直すきっかけになればと思い、この記事を書いています。

ハムストリングス肉離れの評価

ハムストリングスの肉離れを評価する理学療法士

評価というのはトレーナーや理学療法士が使う専門用語で、怪我の状態を調べることを言います。

論文冒頭で説明されているのは、ハムストリングスの肉離れにおける評価は、怪我を特定するより、怪我の治療過程を考えるために重要な役割があるということです。

どういうことかと言うと、太ももの裏に痛みが出た際に最も可能性が高いのはハムストリングスの肉離れです。

ほとんどが肉離れと言っても過言でないほど、ハムストリングスの痛みは肉離れの可能性が高いです。

そのため評価をするときも、様々なチェックテストをして「これはどんな怪我だろう?」と考えるのではなく、「これはハムストリングスの肉離れか、それ以外か」と考えれば良いということです。

そして、怪我の状態や重症度を評価して、完治までどれくらいの期間がかかりそうか、ということを考えることが、より重要であると言われています。

それでは実際の評価とおすすめ度を見ていきましょう。

患者の問診 –A

ハムストリングスを怪我した本人から話を聞くことは非常に重要です。

ハムストリングスの肉離れが疑われる可能性の高い受傷機転は以下のとおりです。

  • 急に太腿の裏に痛みが出る
  • 過去にハムストリングスを肉離れしたことがある
  • 過去にハムストリングスの同じ箇所を肉離れしたことがある

これらの特徴があった場合は、怪我がハムストリングスの肉離れである可能性が非常に高いので、患者への問診は必ず行いましょう。

触診 –B

ハムストリングスの肉離れをした箇所を触診すると、圧痛が見られます。

しかし重要なのは、痛みの有無よりも痛みの場所筋腹(筋肉の真ん中)か、坐骨に近い部分か、を確認することだと書かれています。

坐骨に近い部分の肉離れの方が治りが遅いため、治療過程を考える上で確認しておくべき情報です。

可動域検査 –B

肉離れを起こすと筋肉を痛めるため、関節の可動域が低下します。

ハムストリングスの肉離れでは、股関節の屈曲膝関節の伸展の可動域が下がります。

可動域検査で重要なことは、可動域が低下したかよりも、怪我をしていない脚と比べてどれくらい低下したか、ということです。

健常な脚と比べることで、重症度や改善目標を考えることができます。

以下のも追加で調べておいた方が良い情報とされています。

  • 異なる股関節屈曲位(90度or MAX)での膝関節進展可動域
  • 股関節屈筋群
  • 足関節背屈可動域

これらはハムストリングス肉離れのリスク要因として考えられています。

筋力検査 –A

筋力検査で重要なことは客観的な指標を使うこと、と書かれています。

例えば、ダイナモメーターやフォースプレートなど、数字として筋力を表すことができると、信頼できる指標になります。

もう一点重要なことは、ハムストリングスが二関節筋であることを考慮することです。

ハムストリングスは股関節と膝関節に関わる筋肉なので、例えば膝関節屈曲の筋力検査をするときは、股関節を屈曲位、伸展位それぞれの状態で検査することが大切だと書かれています。

MRI検査-B

肉離れをMRI検査で調べることも有効な評価方法です。

MRI検査を受けることで、肉離れの場所と損傷程度が詳細に分かります。

MRIで目に見える損傷が発見されたときや、坐骨に近い部分の肉離れが起こったときは、治るまでにより時間がかかるというエビデンスもあるようです。

MRI検査で肉離れの詳細な状態を把握した方が、リハビリを効果的に進めることができるでしょう。

ハムストリングス肉離れのリハビリ

肉離れのリハビリ指導を受ける男性

ハムストリングスの肉離れが診断・評価されたら、リハビリもすぐに開始されます。

リハビリや治療の内容も、著者の4人がおすすめ度を付けて紹介しています。

段階的なランニング –A

スポーツに復帰するためには、段階的なランニングとスプリントを行うことがリハビリで1番重要だと述べています。

痛みのない範囲で徐々にスピードを上げていくこと、100%で走れるようになったら競技に合わせた動きを取り入れる必要があります。

ランニングはほぼ全てのスポーツに必要な運動なので、必ず行うようにしましょう。

論文には実際に使うことができるリハビリメニューがイラストで紹介されていますので、参考にしていただければと思います。

肉離れのリハビリ用ランニングメニュー

イーセントリックエクササイズ –A

損傷した筋肉を修復し、ランニングを100%で行えるようになるためにも、ハムストリングスのイーセントリックエクササイズはとても重要視されています。

論文ではLプロトコルというリハビリメニューが紹介されていて、段階的な負荷の調整膝関節角度の重要性も書かれています。

Lプロトコルでは強度が足りていないため、最終的にはノルディックハムストリングスで鍛えることを勧めています。

股関節伸展筋強化 –B

ハムストリングスの肉離れをリハビリで鍛えるときは、膝関節伸展位でエクササイズすることを勧めています。

ハムストリングスが伸びきった状態で力を発揮させることが、肉離れの再受傷リスクを軽減するとされています。

ハムストリングスだけでなく、大臀筋などの股関節伸展筋もヒップスラストなどで鍛えるよう書かれています。

ハムストリングス柔軟性エクササイズ –B

ハムストリングスの肉離れ後に、ストレッチなどの柔軟性エクササイズをすることの重要性が述べられています。

同時に、ほとんどの場合で1-2週間以内に元の柔軟性に戻るとも書かれています。

膝関節の伸展制限が残ると肉離れ再受傷リスクが高まるので、可動域が戻らないときは積極的なストレッチを勧めています。

アジリティとコアエクササイズ –B

サイドプランクなどの体幹トレーニングや、アジリティを鍛えることでハムストリングス肉離れの再受傷率が低下したというエビデンスがあるようです。

ただ、少し古い論文から引用されているので、改めて有効性を調べる必要があるかもしれません。

ランニングフォーム改善 –C

ランニングフォームを改善することでハムストリングスの肉離れを予防できるというエビデンスがあると紹介されています。

例えば、走っている時に骨盤の過前傾体幹の側屈が起こると、ハムストリングス肉離れの要因になるそうです。

ただし、エビデンスが少し弱く、肉離れへの直接的なエビデンスとはならないということで、C評価になっています。

ジョギングを楽しむ健康的な高齢男性

ここからはリハビリや運動療法以外の治療について紹介していきます。

PRP療法 –A

PRP療法は日本語で”多血小板血漿療法”と呼ばれています。

日本ではまだ馴染みのない治療法ですが、海外では劇的に広まっている治療法です。

簡単に説明すると、自分の血液を取り出し、専用の遠心分離機で血小板を集め、損傷した部位に注射し直す、という治療です。

筋肉などの軟部組織の修復に効果的ですが、新しい治療法なのでエビデンスがまだ少ないという懸念があります。

手技療法 –C

手技というのはマッサージやモビリゼーションなど、直接手で触る治療です。

ハムストリングスの肉離れに限らず、手技療法はエビデンスが弱いことが多いです。

理由としては、誰が何をするかが大きく影響するためです。

例えば、肉離れの治療で以下のような結果が出たとします。

Aさんのマッサージは効果があったが、Bさんのマッサージは効果がなかった。

Aさんのモビリゼーションは効果があり、Bさんのモビリゼーションも効果があった。

この結果から考えられることは、以下のとおりです。

  1. マッサージは50%で効果がある
  2. モビリゼーションは100%で効果がある
  3. Aさんの手技は100%で効果がある

このように、治療法が効果的なのか、治療家の腕次第なのかわからないため、エビデンスとして証明しづらいです。

今回の論文でも、エビデンスの低い手技療法より、他の強いエビデンスがある治療を行う方が効率的とされています。

手技療法は客観的な判断が非常に難しい治療だと思います。

まとめ

今回紹介した論文では、ハムストリングスの肉離れに対して効果的なリハビリ方法を紹介していました。

論文中に挙げられたおすすめ度”A”のリハビリについては、エビデンスもしっかりしているので忘れずに実施したいと思います。

  • 患者の問診
  • 筋力検査
  • 段階的なランニング
  • イーセントリックエクササイズ
  • PRP療法

PRP療法だけは、対応いただける病院を探す必要があります。

あくまでABCのおすすめ度は、4人の著者がエビデンスをもとに決定したもので、研究者の先入観が入っていることは忘れないでください。

ただ、ハムストリングス肉離れの治療とリハビリをする上での全体像や、どのような治療の選択肢があるかを再確認するのに有意義な論文でした。

数多くある治療法から、限られた治療時間で最も効果的なリハビリを行うために、改めてリハビリの種類を見直していただければと思います。

肉離れに関してより詳しく知りたい方は、以下のページで肉離れを詳しく解説しています。

参考文献
Hickey JT, Opar DA, Weiss LJ, Heiderscheit BC. Hamstring Strain Injury Rehabilitation. J Athl Train. 2022 Feb 1;57(2):125-135. doi: 10.4085/1062-6050-0707.20. PMID: 35201301; PMCID: PMC8876884.

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