2024.02.09
野球肘
野球肘
執筆大澤 亮(理学療法士)
有名なスポーツ整形外科で主に手術直後のリハビリを担当。病院で培った臨床技術を活かし、ジュニアアスリートから高齢者の運動愛好家まで幅広い年代のリハビリを得意とする。自身のスポーツ歴は野球、バスケ、カヌー。
野球やソフトボール、やり投げなど投球動作を繰り返すスポーツをしていて肘が痛いことはありませんか。
特に成長期の子供に起こりやすく、少し時間がたてば痛みが治まることが多いのが野球肘の特徴です。しかし、痛みが治まっても根本的によくなったわけではなく痛みが落ち着いただけなのです。
このページでは神戸三宮で活動する理学療法士が、野球肘に関するこのようなお悩みを解決するための情報を紹介しています。
記事の内容
- 野球肘に関する最新情報を知りたい
- 野球肘を治す方法を知りたい
野球肘は慢性化しやすい怪我です。
怪我の状態によっては最悪手術が必要になってしまうこともあるので、少しでも早く改善と再発予防に取り組むことが大切です。
この記事では自宅でできるエクササイズを4種目紹介しているので、ぜひ試してみてください。
野球肘とは
野球肘とは投球動作を繰り返すことによっておこる肘関節障害の総称です。
野球肘にも「内側が痛い」、「外側が痛い」等様々な種類があります。
特に成長期の野球、ソフトボール、やり投げなど投げる動作の繰り返し、テニスなどラケットを振る動作の繰り返しによって多く発生します。
肘関節は通常曲がるか伸ばす、この2つの運動しかできない関節です。
しかし、投球動作時に肘関節には内側が引っ張られる力、外側がつぶれるような力が働きます。
このようにして本来動くはずのない方向への力を止めるために筋肉が過剰にストレスを受ける、靭帯が過剰に伸ばされるといった動作の繰り返しによって痛みが発生します。
野球肘の分類
野球肘とは肘関節障害の総称なので大きく分けて3種類に分類されます。
野球肘の分類
- 内側型
- 外側型
- 後方型
内側型
投球動作時に腕を振りだそうとする際に、肘関節に外反ストレス(外側に開こうとする力)がかかり、内側上顆(内側の骨の出っ張り)に加わります。
フォロースルー動作では前腕が急速に回内(内側にねじる)するためさらに肘の内側に強いストレスが加わります。このような投球動作の繰り返しにより損傷が起こります。
成長期の選手では成長軟骨が障害され場合によっては剥離損傷(骨が剥がれる)となり固定、手術が必要なこともあります。
高校生以上の骨端線が閉鎖している場合、投球動作の繰り返しによって外反ストレスが加わり関内側側副靭帯が障害されます。
外側型
投球時の外反ストレスによって肘関節の腕橈関節という肘関節外側の部分で衝突することで起こります。
このストレスが加わり続けることで離断性骨軟骨炎が発症します。発症早期では痛みをあまり訴えないことから症状が出て診察した時には重症化しているケースもあります。
重症化してしまうと軟骨片(軟骨が剥がれたもの)が関節内遊離体となり引っ掛かりやロッキング(関節が動かなくなる)することもあります。
後方型
フォロースルーでの早い動作での伸展、過剰な伸展により後方が衝突し骨や軟骨に障害が起きます。
投球動作の繰り返しによって疲労骨折、骨に棘のようなものができ骨同士が衝突するような症状が出ることがあります。
野球肘の特徴・評価
圧痛の有無
痛みのある部位を抑えて痛みがあるかを確認します。
外反ストレステスト
強制的に外反ストレスを加えて痛みが出る確認します。
関節可動域制限
肘関節、肩関節、肩甲骨、体幹、股関節などの可動域を確認し左右で差がある確認します。
現在痛みがなくても可動域が小さくなることで痛みが発症するリスクが高くなるので予防の点でも大切になります。
野球肘の原因
野球肘の原因は投球動作の繰り返しによるオーバーユースで発生します。しかし、オーバーユースだけが原因ではないのです。肘にかかる負担を軽減することが野球肘を予防するためには大切です。
投球動作は全身を使った運動です。下半身から上半身へと力が伝わり、肩、肘を通して投球します。下半身や体幹の可動域制限があるなど、うまく機能していないと肘への負担が大きくなります。
例えば、猫背の人は肩甲骨や胸郭の動きが悪く、胸をうまく張れなくなり野球肘になりやすいとの報告もあるため、姿勢の改善も大切です。
野球肘の検査方法
疼痛サイン
野球肘では痛みがどこに出ているのかが大切です。
圧痛を確認し痛みの場所を断定します。
外反ストレスを加え疼痛が発生するか確認します。
レントゲン検査・MRI検査
レントゲンでは内側や外側に骨片(骨のかけら)を確認することができます。
MRI検査では靭帯の損傷の程度まで確認することができます。
野球肘の治療方法
保存療法
野球肘の治療ではまず局所安静、投球を中止することが多いです。特に内側型の症状は保存療法での予後がいいとされています。
並行して運動療法を行うことで再発予防、疼痛の軽減ができます。
ストレッチ
肘関節、肩関節、体幹等に可動域制限があるか、また、左右で大きく可動域が異なる場合野球肘になるリスクが高くなります。
肘や肩だけでなく体幹や肩甲骨や股関節可動性をしっかり獲得することで障害の再発予防にもつながります。
胸椎ローテーション
- 四つ這いになり、片手を頭の後ろに置く
- 胸を大きく開いて回し、天井を見上げる
胸椎モビリゼーション
- ストレッチポールやグリッドの上に肩甲骨を当てて乗る
- 胸を開きながら胸椎を伸ばしていく
肩関節内旋運動
- 横向きになり、肘を90度に曲げて床につける
- 手のひらを床につけるように、逆の手で押す
肩関節外旋運動
- 横向きになり、肘を90度に曲げて床につける
- 手の甲を床につけるように、逆の手で押す
前腕ストレッチ
- 手首を逆さにし、手のひらを床につける
- 身体を後ろに倒して前腕の筋肉を伸ばす
投球フォームの修正
野球肘では投球フォームによって肘にかかるストレスは大きく変わります。投球フォームを改善しなければ投球を中止して痛みが一度落ち着いても時間がたてば繰り返し同じストレスが加わり痛みを再発する恐れがあります。
手術療法
外側型で症状が進行している場合は手術療法も考えられます。
野球肘の予防法
投球数の制限
前述したように野球肘はオーバーユースによっておこります。つまり投球数を制限すれば野球肘のリスクは低下します。
メジャーリーグでは年齢によって投球数を厳しく制限しています。
年齢 | 1日投球数の上限 |
7-8 | 50 |
9-10 | 75 |
11-12 | 85 |
13-14 | 95 |
15-16 | 95 |
17-18 | 105 |
19-22 | 120 |
参照 http://m.mlb.com/pitchsmart/pitching-guidelines
野球肘まとめ
これまでの内容を簡潔にまとめます。 野球肘とは、投球動作によって起こる肘関節障害の怪我です。
野球肘の症状
- 投球動作時の痛み
- 肘内側の痛み
- 肘外側の痛み
野球肘の原因
- 投球動作の繰り返し
- 過度な投球数
- 投球フォーム
- 膝への外力
野球肘の治療
- ストレッチ
- 筋力トレーニング
- 投球フォーム改善
- 手術
野球肘の予防
- 正しいフォームの習得
- 投球数の制限
- 関節可動域改善
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身体の痛みは、痛みのある部位だけが原因とは限りません。
例えば野球肘の場合は、痛みを改善して競技復帰できるように回復させるのは当然ですが、再発を予防するための投球フォーム改善まで目指します。
怪我を治療しても再発予防まで徹底しないことには、また将来的に肘を痛めてしまう可能性があります。
Lifelongの治療方針は痛みの改善だけでなく、怪我の原因を根本から改善することです。
痛みが出るたびに治療を受けるのではなく、痛くなる原因を改善して痛みが再発しない身体を目指しましょう。
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