2025.11.29
肉離れ
【予防法】練習“前後”のノルディックハムストリングが肉離れ防止に効果あり
執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)
ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。

今回紹介する論文は、ハムストリングスの怪我予防に関する論文です。
ハムストリングスの怪我で最も多いのは肉離れです。ハムストリングスの肉離れはサッカーやバスケ、陸上競技など、速いスピードで走る、急に止まる、という動作が多いスポーツで頻繁に起こる怪我です。
ノルディックハムストリング(ノルディック・ハムストリング・エクササイズ(Nordic Hamstring Exercise, NHE))は、ハムストリングスの肉離れ予防として有名なエクササイズですが、その予防方法に関して『練習前後にエクササイズを取り入れることが効果的である』興味深い結果が報告されたので、ぜひ有効活用していただければと思います。
| この記事でわかること |
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出典元:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6734023/pdf/arm-2019-43-4-465.pdf
目次
1. 論文の概要
今回の研究ではノルディックハムストリング(ノルディック・ハムストリング・エクササイズ(Nordic Hamstring Exercise, NHE))というエクササイズが、ハムストリングスの怪我予防に与える影響について調べられています。
ⅰ. ノルディックハムストリング(ノルディック・ハムストリング・エクササイズ(Nordic Hamstring Exercise, NHE))とは
ノルディックハムストリングは、ハムストリングスの肉離れ予防としてスポーツ業界やトレーナー業界に知れ渡っており、科学的な根拠も多く発表されている有名なエクササイズです。

<エクササイズの方法>
| エクササイズをする人は膝立ちになり、補助者が両足を押さえます。両足が固定された状態で、ゆっくり前に倒れていき、耐えられなくなったら両手で支えながら地面に倒れる、という種目です。 |
実際にやってみると非常に負荷の高い、大変なエクササイズですが、『ノルディックハムストリングを練習前だけでなく、練習後にもした方が予防効果が高まるのではないか?』という仮説を明らかにするために、この研究が行われました。
ⅱ. 研究の方法
研究が行われたのは2019年エジプト、対象はプロサッカー選手、34名です。以下の2つのグループに分けられ、週に2回、3ヶ月間実施されました。
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比較対象は、グループ1、グループ2、そして今回選手が集められたクラブの、前シーズンに起きた怪我状況から、怪我の発生率(初回傷害と再発傷害)、重症度(欠場日数)、プロトコルの順守率を測定しています。
| 対象者 | 34名のプロサッカー選手(男性、21〜35歳) エジプト、アレクサンドリアのスポーツクラブに所属 |
| グループ構成 | 選手を以下の2つの介入グループにランダムに割り当てた(各17名) 比較のために、同じチームの前シーズンのデータを対照群とした |
| 期間 | 3ヶ月間、週2回実施 |
| 評価項目 | ・ハムストリング肉離れの発生率(初回傷害、再発傷害) ・傷害の重症度(欠場日数)とプログラムの遵守率 |
2. ハムストリングスの怪我発生率が35.1%→5.9%に大幅減少
まず一つ目の指標になったのが、ハムストリングスの怪我数です。
前シーズンでは35人の選手に対して、13回ハムストリングスの怪我が起きています。対してグループ1では1回、グループ2では3回の怪我が今回発生しました。
| 発生回数 | 発生率 | |
| グループ1(練習前後) | 1回/17人 | 5.9% |
| グループ2(練習前のみ) | 3回/17人 | 17.6% |
| 前年度 | 13回/35人 | 35.1% |
ノルディックハムストリングを練習前にするだけでも、怪我の発生率が半分まで減少していますが、練習前後に行った場合は昨年度と比較して、6分の1にまで下がることがわかりました。
3. ハムストリングスの怪我再発率は0%に減少
ハムストリングスを怪我した選手の中で、以前にも同じ場所を怪我したことのある選手も調べられました。
特にハムストリングスの肉離れは再発率の多い怪我なので、再発率を調べることは重要な項目です。
| 発生回数 | 発生率 | |
| グループ1(練習前後) | 0回/17人 | 0% |
| グループ2(練習前のみ) | 1回/17人 | 5.9% |
| 前年度 | 7回/35人 | 18.9% |
数字を見ていただければ一目瞭然ですが、練習前後にエクササイズを実施したグループの再発率は0%でした。
一方で、ノルディックハムストリングをしなかった前シーズンの再発率は約19%もあります。
過去にハムストリングスを肉離れなどで痛めてしまった選手にも、再発予防の効果が期待できそうです。
4. 怪我から復帰するまでの日数は1週間→1日へ減少
そしてもう一つ興味深い結果が出たのが、怪我からの復帰日数への影響です。
| 復帰日数 | |
| グループ1(練習前後) | 1日 |
| グループ2(練習前のみ) | 2.7日(2~3日) |
| 前年度 | 7.95日(5~10日) |
この結果から伺えることは、ノルディックハムストリングを行うことによって怪我が起きにくいだけでなく、怪我をしたときも早く復帰できるということです。
特にエクササイズを行わなかった前シーズンと比べると、約1週間も早く復帰できるという結果になります。
5. 論文への疑問点と信頼性
今回の研究結果より、ノルディックハムストリングがハムストリングスの怪我予防に効果的であることが分かり、さらに、今まで報告されなかった、練習前後で行うことで、効果が高くなるという結果は大変興味深いです。
ハムストリングスの肉離れ予防をしていたのに肉離れしてしまった、という選手は、練習後にも行うことで怪我を予防できるかもしれません。
ただ注意していただきたいのは、今回の論文で疑問に残る点もあることです。この研究は、ノルディック・ハムストリング・エクササイズ(NHE)の予防効果を調べたランダム化比較試験ですが、その結果を解釈する上では、いくつかの方法論的な限界(Limitations)を考慮する必要があります。
① 介入対象と一般化の限界被験者数が少ない(多様性の欠如)
今回の被験者は34名と少なく、同一クラブに所属するプロサッカー選手に限定されています 。このため、他の地域や競技レベルの選手にこの結果を一般化する際には、限界があります 。
また、データ比較の基礎となる対照群が、NHEを実施しなかった前シーズンの同一チームの記録です 。このため、シーズン間で選手の入れ替わりや、トレーニング負荷、その他の要因が異なっている可能性があり、介入群と対照群が完全に同等であるとは断言できません。
② NHE特有の優位性とベースラインリスクの評価
今回の5.9%という高い予防効果がNHE特有のものなのか、それともトレーニング全般や、単にプログラム遵守率の高さによるものなのかは、この研究だけでは断定できません。
予防効果を正確に評価するためには、他のハムストリングス強化運動との比較が必要とも言えます。
上記の限界点がある一方で、以下は信頼性を高める要因とも言えます。
- ランダム化比較試験であること:
被験者をランダムにグループ分けしており、交絡因子の影響を最小限に抑えるための適切な研究デザインを採用しています 。- 高いプログラム遵守率:
介入グループの遵守率(コンプライアンス)が98.7%~100%と非常に高く、これは過去のこの分野の研究で達成された中でも最高水準と言えます。これにより、プログラムが効果を発揮するための条件が満たされていたとも考えられます。
6. 練習前・後にノルディックハムストリングスを取り入れて肉離れ防止!
今回紹介した論文は、練習前後にノルディックハムストリングスを行うことで、以下の効果があると報告しています。
- ハムストリングスの怪我が大幅に減少
- ハムストリングスの怪我の再発率も減少
- 怪我から復帰するまでの日数も減少
- 練習前だけやるよりも効果がある
ノルディックハムストリングスを行うことで、ハムストリングスの怪我を予防する効果があることが期待できます。
しかし今回の研究に参加した被験者数は非常に低く、さらにチームのコンディションにも左右するデータとも言える(前年度の怪我があまりに多かったから、今回の結果が良く見えたという可能性も…)ので、一つの参考文献として理解していただければと思います。
Lifelongでは肉離れのリハビリも行っています。こちらのページで治療法やリハビリも紹介しています。検討中の方はぜひご覧ください。
肉離れに関してより詳しく知りたい方は、こちらの記事をお読みください。
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