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Case Study 症状別事例

2021.10.07

足首の捻挫

足関節前方インピンジメント症候群における骨棘切除術の有効性

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。


今回紹介する文献は2018年に発表された、“Arthroscopic debridement of anterior ankle impingement in patients with chronic lateral ankle instability”という足首のインピンジメント症候群に関する論文です。

この論文は足関節前方インピンジメント症候群に対する骨棘切除術が機能的、構造的にどのような効果をもたらすか?を調査しています。

結論は以下のとおりです。

  • 足関節機能の向上
    ➡︎ 3種類のテスト全て向上
  • 足関節背屈可動域の改善
    ➡︎ 約2倍に(13° → 25.9°)
  • 骨棘の再形成なし

足関節前方インピンジメント症候群に対する手術療法は高い効果を見込め、後遺症などの心配も少ないようです。

インピンジメント症候群による足関節の痛みを取り除き機能を回復させる手段として、選択肢に入れておくべき治療法だと思います。

それでは論文を詳しく解説していきます。

論文の概要

この論文の目的は、慢性的に足関節外側の不安定性がある患者における、足関節前方インピンジメント症候群に対する骨棘切除術の効果を調べることです。

少し難しいので、研究の流れをわかりやすく図解しました。

まず今回の被験者は60名の慢性的な足首外側不安定性を患っている患者さんです。

この方々は足首の不安定性を改善するために“Broström repair”という足首の靭帯再建手術を受ける予定です。

手術前に足首の状態を内視鏡で確認すると、足首前方インピンジメント症候群が22名の方から確認されました。

この22名は内視鏡検査の段階で、インピンジメント症候群を治療するための骨棘切除術を受けています。

残りの38名足関節不安定性を治す手術だけを受けています。

つまり、今回比較される被験者は、足首不安定+インピンジメントvs足首不安定のみというグループに分けられます。

両グループとも足首不安定性を治療する手術を受けているので、両グループの間に差異が見つかれば、それは骨棘切除術によるインピンジメント症候群の改善効果と言うことになります。

骨棘切除術の効果検証方法

足首前方インピンジメント症候群に対する骨棘切除術の効果を調べるために、手術前に以下の項目を記録しました。

  • 足関節の機能性テスト
    ・AOFAS score
    ・Karlsson score
    ・Tenger score
  • 足関節背屈可動域
  • レントゲン検査

機能性テストは足首の状態を数値化して評価することができます。

それぞれのテストについては割愛しますが、痛みの強さや歩行機能を調べます。

足関節の背屈というのは、足首を甲に向けて上げる動きです。

足関節前方インピンジメント症候群の場合、足首の前部にある骨棘が背屈を制限してしまうので、背屈の可動域が制限され、痛みを感じることが多いです。

最後のレントゲン検査は、骨棘を視覚的に確認するための指標となります。

これらのテストを手術前に行い、術後2年以上経過した後に再度同じテストで評価しています。

骨棘切除術でのインピンジメント症候群改善結果

以下の表が、それぞれのグループの手術前後のテスト結果を記録しています。

まず注目して欲しいのが、手術前の数値です。

全てのテスト項目でインピンジメントグループが足首不安定グループに劣っています。

両グループとも足首外側の不安定性は見られるので、この数値の違いは前方インピンジメント症候群の有無が影響していると考えられます。

そして手術後の数値を見てみると、両グループとも改善が見られますが、両グループ間の差異がほとんど見られなくなっています。

AOFAS score

一番上のAOFAS scoreを見てみましょう。

手術前ではインピンジメントグループが10ポイントほど下回っていましたが、手術後には差がなくなるどころか、数値が上回っています。

もしインピンジメントグループが足関節不安定の手術だけを受けて、インピンジメント症候群を治さなかったら、術後も10ポイントの差は残っていたはずです。

この差異がなくなっているということは、骨棘切除術がインピンジメント症候群を改善し、10ポイント分の機能を改善した、と解釈することができます。

足関節背屈可動域

次に、足関節背屈可動域の数値を見てみましょう。

足首不安定グループは手術の前後で数値にほとんど変化が見られません。

これは足関節不安定性に対する手術は背屈可動域に影響を与えなかったということです。

一方のインピンジメントグループは、約13°も背屈可動域が改善されています。

この差異を考慮すると、骨棘切除術によって前方インピンジメントが改善され、足関節背屈可動域が向上したと受け取ることができます。

レントゲン検査結果

今回の研究では手術の前後で足関節がどのように変化したか、を調べています。

手術後の検査は最低でも2年後に行っていて、インピンジメントグループでは平均で1年半後に検査を受けています。

術後のレントゲン検査では、以下の2点が報告されています。

  • 全ての患者から骨棘が完全に取り除かれていた
  • 全ての患者から骨棘の再形成が見られなかった

患者によって術後検査のタイミングが異なるので一概には言えませんが、最低でも2年以上手術から経過しても、骨棘の再形成が見られなかったという事実は重要です。

これから骨棘切除術を受ける人にとっても、再発の可能性が低いということは、手術を受けるという選択肢を取る後押しになると思います。

論文の考察

今回の論文で気になる点は、手術後に再評価するタイミングです。

両グループとも最低でも24ヶ月、2年以上経ってから再評価とテストを行っています。

手術直後に受けるリハビリは、両グループとも同じと記載されていますが、その後の再評価までの期間については言及されていません。

それぞれの被験者がどのように過ごしたのか?

個別に治療は継続して受けていたのか?

痛みがなくなるまでの時間に差はなかったのか?

再テストまでの期間にどのような治療、リハビリを受けたかということが2回目のテストに影響を与えている可能性があります。

また、2年後の評価は両グループとも良好でしたが、その後の経過についてはわかりません。

もしかしたらインピンジメントグループに骨棘が再発しているかもしれないし、足首不安定グループが改善し続けるかもしれません。

手術の影響は長い年月を経て現れることもあるので、もう少し長期での経過観察も必要になってくると思います。

捻挫の予防がインピンジメント症候群の予防に

今回紹介した論文では、足首外側に慢性的な不安定性がある患者さんが被験者となりました。

60人のうち22人に前方インピンジメント症候群が見られた、というのは非常に高い比率です。

そもそもインピンジメント症候群の原因である骨棘は、骨同士が繰り返しぶつかることで形成されることが多いです。

足首の不安定性があるということは、足首の靭帯が機能低下していると言えます。

不安定な足首は靭帯が機能している足首に比べて動き過ぎてしまい、骨同士が当たりやすくなり、骨棘を形成しやすくしてしまいます。

なので、足首の捻挫を予防することで、足首が不安定になることを防ぎ、インピンジメント症候群も防ぐことに繋がります。

足首の捻挫に関しては、以下のページで詳しく紹介していますので、ぜひ目を通してみてください。

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