2022.07.06
足首の捻挫
【実体験】捻挫だと思ったら剥離骨折だった!誰も気づかなかった子供の足首骨折を見つけた方法
執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)
ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。
今回紹介するのは、複数の医療従事者から足首の捻挫と言われた子供が実は剥離骨折をしていたという話です。
これは実際に私が経験した症例で、保護者の了承を得た上で記事に書かせていただいています。
普段から”足首を捻った=捻挫”という固定概念で怪我を見ていると、このように重大な見落としをしてしまうので注意しましょう。
この記事では、捻挫だと思われた怪我が実は剥離骨折だった実例と、実際にどのような方法で剥離骨折を判別したか?という方法を紹介します。
記事の内容
- 捻挫と診断された足首が剥離骨折していた症例の紹介
- 足首の剥離骨折を発見した方法
今回の怪我を簡潔に説明すると、このような流れで剥離骨折を発見しました。
試合中に左足首を蹴られて足をひねる
⬇︎
3名の医療従事者に”軽度の捻挫”と言われる
⬇︎
来店。足首の症状は捻挫に見えた
試合に出場予定とのことで、捻挫のリハビリをする
⬇︎
試合には出場できず
足首を改めて確認すると、剥離骨折の可能性が考えられたのでレントゲン検査を勧める
⬇︎
病院のレントゲン検査で剥離骨折を確認
捻挫をしたけど骨折していないか不安になっている人や、足首の剥離骨折を確認する方法を知りたい人の役に立つ記事になっています。
剥離骨折した患者の状況
まずは怪我の状況について時系列で紹介します。
今回怪我をしたのは、以前から当店に通っていた小学生のサッカー選手(以後Aさん)です。
Aさんは最初、原因不明の左膝痛で病院のリハビリに通っていましたが、1ヶ月半経っても改善が見られなかったので相談に来られました。
膝の痛みは、膝まわりの筋バランス調整と臀部、ハムストリングスの筋力強化によって2週間ほどで改善し、痛みなくサッカーができるようになりました。
しかし、その2週間後にサッカーの試合中、相手選手に右足を蹴られて負傷。
蹴られた際の打撲と足首の内ひねりによる軽度の靭帯損傷、いわゆる足首の捻挫と診断されました。
この捻挫は2週間ほどで回復し、試合にも問題なく出場できるようになりました。
その後、障害予防とサッカー動作改善のためのトレーニングを継続していましたが、あるとき1週間ほどお休みされる時期がありました。
そしてご連絡をいただいた際に、今度は左足を捻挫したと報告がありました。
試合中に左足首を蹴られ、足首を内側にひねるように怪我をしたそうです。
所属クラブのトレーナーさんには足首の捻挫と判断され、怪我をした当日と翌日はそのまま試合に出続けたようです。
その後、ママ友に進められた鍼灸治療院を受診。
治療院でも捻挫との判断で電気治療とテーピングによる治療を受けました。
次に、リハビリで通っている整形外科を受診しましたが、そこでも足首捻挫と言われたそうです。
この1週間の間に何名かの医療関係者に足首を見てもらったようですが、どの方も”軽度の捻挫”との判断だったようです。
足首を診察された場所
- 所属クラブのトレーナー
- ママ友に紹介された鍼灸治療院
- かかりつけの整形外科
当店来店時の症状
1週間の間に様々な医療施設で診察と治療を受けても、あまり効果がなかったということで当店に再び相談に来られました。
左足首の症状は一般的な捻挫でよく見られる症状でした。
- 足を内側に捻ると痛い
- 外くるぶしの圧痛
- 外くるぶし周りの腫れ
そして、サイドランジのような横方向への動きでは痛みを感じるものの、ダッシュやジャンプでは痛みが出ませんでした。
痛みもあまり強くなく、サッカーに関する動きもほとんど痛みなく行えたというのが初見です。
所属クラブのトレーナーさんの判断で、少し様子を見てから練習と週末の公式戦に参加する予定とのことだったので、当店では足関節の簡単な運動やリハビリを行いました。
捻挫の症状が改善せず、足首を再確認
当店では2回ほどリハビリを受けられて、その間もサッカーの練習には休まず参加していました。
しかし痛みがあまり改善せず、週末の公式戦は休むことになったようです。
週明けにご来店いただき、改めて左足首の状態を確認しました。
足首の評価を行いながらAさんと親御さんに再度詳しい話を伺ううちに、「これは普通の捻挫ではないかも?」と思うようになりました。
本人と親御さんに「もしかしたら剥離骨折の可能性があるかもしれない」という考えをお伝えし、レントゲン検査を受けてみてはどうかと進言しました。
一応念のためにということで、その日のうちに以前とは別の病院を受診しました。
病院でレントゲン検査を受けた結果、腓骨下方(外くるぶし)の剥離骨折が発見されました。
剥離骨折を疑った根拠
今回剥離骨折の可能性にたどり着くことができたのは、以下の特徴が一般的な捻挫とは違うと判断したためです。
- 足首の靭帯への圧痛がない
- 腓骨に圧痛がある
- 音叉テストで痛みを感じた
- ダッシュやジャンプは痛くないが、ボールを前で蹴ると痛い
それでは順番に解説します。
足首の靭帯への圧痛がない
足首は多くの靭帯が骨同士を繋ぐことで安定性を保っています。
内反捻挫をしたときは、足首の外側についている前距腓靭帯、後距腓靭帯、そして踵腓靭帯を損傷することが多いです。
Aさんは足首を内側に捻っていましたが、足首の靭帯に痛みを感じている様子はありませんでした。
➡︎ 捻挫すると靭帯が伸ばされて損傷するのが最も一般的。しかし靭帯は損傷せず、靭帯が骨に付着している部分が剥がれてしまうことがある(剥離骨折)。
腓骨に圧痛がある
前距腓靭帯への圧痛はありませんでしたが、腓骨の前面には圧痛がありました。
➡︎ 靭帯ではなく骨が損傷している可能性
音叉テストで痛みを感じた
骨折の確認をすることができる音叉テストというものがあります。
音叉は楽器のチューニングに使われる道具ですが、音叉の振動を使うことで骨の損傷を調べることができます。
音叉テストは非常に簡単で、振動させた音叉を骨折の疑いがある骨に直接当てるだけです。
このとき、痛みのでている部分だけでなく、骨の広い範囲に音叉を当てましょう。
今回のケースを例すると、腓骨は足首から膝までついている長い骨なので、腓骨下部(外くるぶし)、腓骨上部(膝外側)とその中間部に音叉を当てます。
実際に音叉テストを行ってみたところ、痛みのある腓骨下部だけでなく、腓骨中間部に音叉を当てたときも足首に響くような痛みを感じていました。
音叉テストで特に気をつけたいことは、痛みが出ている部分から少し遠い場所に音叉を当てたときにも痛みを感じるか?という点です。
もし骨折の疑いがある場合は、少し遠い部位に音叉を置いたとしても、振動が骨を伝わることで損傷部位に痛みを感じることが多いです。
ただし注意していただきたいのは、音叉テストは精度の高いテストではありません。
音叉テストで痛みを感じたからといって骨折と判断するのは難しいです。
骨折の可能性を考えるための1つの指標として使うようにしてください。
※ 音叉テストをより正確に行うには”痛み”を指標にするのではなく、聴診器を使うようにしてください。
➡︎ 音叉テストでの響くような痛みは骨折の可能性
ダッシュやジャンプは痛くないが、ボールを前で蹴ると痛い
Aさんは足首に痛みを感じていましたが、痛みを感じずに強度の高い動きを行うことができました。
例えば、スプリントやジャンプ、左足での片足ジャンプも痛みなくできるほどです。
これは一般的な捻挫と比べると、”動けすぎている”と感じました。
そしてボールを蹴るときも、インサイドやアウトサイド(足首の内側と外側)でのキックは全く痛みが出ませんでした。
その中で特に痛みを感じていたのが、インフロント(足首前面)キックです。
全力でダッシュやジャンプをしても痛くないのに、インフロントで軽くボールを蹴るだけで痛みが出るという点がひっかかりました。
この痛みの特徴から、”痛みは関節の動きではなく、足首に直接何かが当たることが原因ではないか?”と考えました。
一般的な足首捻挫だと、足首を動かして関節が動くことで、損傷した靭帯が引っ張られて痛みにつながります。
しかしAさんの場合は、足首前面に直接ボールが当たることが痛みにつながる、つまり足首の前面にある何かが構造的に損傷しているのではと考えました。
その中で、もし骨折をしていたら体重をかけることが難しいと思ったので、剥離骨折の可能性があるのではないか、と結論づけました。
➡︎ 痛みなく動けるが直接触ると痛いのは、筋肉や靭帯の怪我より骨折に多くみられる特徴
剥離骨折の経過
レントゲン検査で剥離骨折が見つかった日から、足首の固定が始まりました。
剥離骨折は完全に治すのが難しい骨折です。
一般的な骨折の場合は折れた骨同士を繋げることで修復しますが、剥離骨折の場合は剥離した部分が浮いてしまい、元々ついていた場所に戻らないことがあります。
今回は不幸中の幸いにも、怪我をしてから時間が経つ前に剥離骨折を発見することができました。
診察した医師は「まだ骨がくっつく可能性があるので足首を固定してみよう」と判断されたようです。
固定から2週間経過したときに再度レントゲン検査を受け、剥離した骨が元の位置にくっつき始めているのがわかりました。
(剥離骨折2週後のレントゲン写真)
それからもう2週間固定したら、幸運にも骨がしっかりくっつきました。
(剥離骨折3週後のレントゲン写真)
(剥離骨折4週後のレントゲン写真)
現在はサッカーの練習に復帰するためのリハビリをしていますが、痛みのある動作もなく、サッカーボールも問題なく蹴ることができる状態まで回復しました。(2022年7月現在)
自分の対応への反省点
今回剥離骨折を見逃すことなく発見できたことは非常に嬉しかったですが、自分の対応への反省点もいくつか見つかりました。
以下が反省すべき点です。
- 他人の”捻挫”という判断を信じてしまった
- 前回の捻挫と怪我のしかたが同じだったので確認を怠った
- オタワアンクルルールが不適切だった
他人の”捻挫”という判断を信じてしまった
Aさんが当店に来る前に、整形外科を始めとする3名の医療関係者が足首を確認していました。
その全ての人が”捻挫”と診断していて、怪我の症状も捻挫と非常に近い症状だったこともあり、盲目的に捻挫だと信じてしまったことが最大の反省点です。
剥離骨折を発見したときに行ったチェックを1番最初に行っていれば、もう少し早く剥離骨折を疑うことができたと思います。
後から知ったことですが、病院に行かれたときは医師に診察されたのではなく、リハビリ担当の理学療法士が捻挫と判断したようです。
他者の評価を鵜呑みにせず、自分自身で怪我の状態を徹底的に調べることの大切さを改めて感じました。
前回の捻挫と怪我の状況が一緒だった
Aさんは2週間前にも、右足を相手選手に蹴られて捻挫していました。
今回の怪我をしたときも、本人、保護者、私の皆が「今度は同じように左足を捻挫した」と思い込んでしまいました。
症状や痛みの場所も捻挫とよく似ていたので、”また同じ捻挫”という強い先入観があったはずです。
例え怪我の状況が全く同じだったとしても、怪我の状態を隅々まで確認しておくべきでした。
オタワアンクルルールが不適切だった
オタワアンクルルールとは、簡易的に足首の骨折を検査するための方法です。
オタワアンクルルールについては、こちらの記事に詳しくまとめています。
最初に足首の状態を確認したとき、このテストを使って骨折の可能性を調べていました。
4箇所の圧痛チェックと歩行テストでは、Aさんは痛みを感じませんでした。
この時点でレントゲン検査の必要性は低いと判断しましたが、オタワアンクルルールは子供に対しての信頼性が確立していないことを知りませんでした。
Aさんのような子供に対してオタワアンクルルールを使うときは、あくまで情報の一つとして使べきで、このテストを基準に骨折の可能性が低いと判断したのは間違いでした。
もし骨折の可能性が低いと判断したならば、より多くのテストを使って骨折の可能性を排除すべきだったと反省しています。
まとめ
- 足首の怪我全てが捻挫というわけではない
- 何か違和感を感じたらセカンドオピニオンを求める
- 面識のない医療従事者の診断を鵜呑みにしない
今回お伝えしたいことは、”足首を捻ったからといって、いつも捻挫だとは限らない”ということです。
例え過去に何回も捻挫をしている人であっても、すぐに捻挫と決めつけずに怪我の状態を細かく調べるようにしましょう。
今回のように剥離骨折をしていて、もし見逃してしまったとしたら、骨折が完治しない足首で残りの人生を過ごさなければいけません。
一つ一つの怪我に対して先入観を持たず、常に客観的に評価することが、怪我を正確に評価する上で大切です。
剥離骨折ではなく、足首の捻挫に関して詳しい情報をお探しの方は、こちらのページをご参考ください。
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