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Case Study 症状別事例

2023.02.09

前十字靭帯損傷

前十字靭帯断裂から復帰する際、基準を満たしても最受傷のリスクは減らない可能性がある

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。専門は"病院で治らなかった身体の痛み"のリハビリ。

今回紹介する論文は2022年に発表された「前十字靭帯から競技復帰するときに復帰基準を満たしたとしても、前十字靭帯を再受傷する危険性は低下しない」という論文です。

前十字靭帯を断裂し、再建手術を受けてから競技に復帰するには、両足の左右差をなくすなど、一定の基準をクリアすることで再受傷の危険性を低下させると考えられています。

しかしこの論文の研究によると、競技復帰するタイミングで復帰基準を満たすことが、実際には前十字靭帯再受傷のリスクには影響しないのではないかと報告されています。

これが事実であれば、現在使われている競技復帰基準だけでは前十字靭帯の再受傷を防ぐことができないということになります。

それでは論文の詳細を読んでいきましょう。

論文の概要

まず研究方法ですが、前十字靭帯再建手術を受けた159人に対して全6種類のテストを実施しました。

記事の内容競技復帰テスト
  1. 主観的評価(IKDC)
  2. 筋力の左右差
  3. 片足ホップテスト4種類

これらのテストの評価基準としては90%以上を競技復帰に向けた十分な数値として判断しています。(主観的評価なら100点中90点、他のテストは逆足に対して90%の数値)

実際に競技復帰する際に、これらのテスト全てで90%以上の数値を出した人を”基準を満たした人”、どれか一つでも90%以下の数値があるまま競技復帰した人を”基準を満たしていない人”に分けました。

それから競技復帰後24ヶ月間で前十字靭帯の怪我が発生したかを追跡調査し、それぞれに違いがあるかを比較しています。

2割以上が前十字靭帯を再受傷

前十字靭帯から競技復帰して2年以内に再受傷した人は35人いました。

これは159名の被験者に対して22%になり、2割以上の人が前十字靭帯損傷を再発しています。

35人のうち16人は同じ膝の前十字靭帯を再受傷、19人は逆足の前十字靭帯損傷でした。

再受傷した選手の評価基準は低くなかった

この研究で被験者となった159名中35名が前十字靭帯を再受傷しましたが、2回目の怪我をした人としなかった人では競技復帰テストの数値に統計学的な差は見られませんでした。

実際に数値を見てみると、再受傷した人のテスト結果の方が数値では高い種目も多かったです。

全ての基準をクリアした人の約3割が再受傷

今回の競技復帰基準として使用された6種類のテストを全て90%以上でクリアした人は159人のうち42人でした。

この42人のうち前十字靭帯を再受傷した人は12人です。(28.6%)

残りの117人は少なくとも1種類以上のテスト基準を満たさないまま競技復帰しましたが、再受傷したのは23人でした。(19.7%)

結果だけ見ると、競技復帰テストの基準をいくつ満たしたとしても、それが前十字靭帯の再受傷リスクを減らしているという結果にはなりませんでした。

それどころか今回の結果に関しては、復帰基準を全てクリアした人の方が再受傷する確率が高くなっています。

論文の考察

今回の研究結果では、数字で見れる範囲で左右差を減らして競技復帰したとしても、前十字靭帯の再受傷リスクは軽減できない可能性が示唆されました。

競技復帰の基準を一つの目標値とするのは大切ですが、数値に頼り切ってしまわないことも重要です。

以前紹介した論文では、数値上の左右差が回復しても、動きの質は回復しないということが報告されています。

前十字靭帯断裂からスポーツに復帰するときは、筋力やジャンプ力といった数値を参考にしながらも、膝に負担のかかりにくい動き方も訓練する必要がありそうです。

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