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Case Study 症状別事例

2024.10.18

前十字靭帯損傷

前十字靭帯再建手術から9ヶ月以内に競技復帰すると、再受傷リスクは7倍に

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。

今回紹介する論文では、前十字靭帯再建手術を受けてから9ヶ月以内に競技復帰してしまうと、再び前十字靭帯を怪我する確率は約7倍になるという研究結果が報告されています。

前十字靭帯断裂は特にスポーツ選手によく見られる怪我で、日常生活を問題なく過ごせるまでに6ヶ月、再びスポーツを行うには8ヶ月から1年のリハビリが必要と言われています。

そして、前十字靭帯再建手術を受けた人にとって最も怖いのは、前十字靭帯の再断裂です。

長いリハビリ期間を終えて日常生活や競技復帰を果たしても、もう一度靭帯を断裂してしまったら、また1からリハビリをやり直さなければいけません。

そして再建手術に使った靭帯も新しい物が必要になるので、別の部位から再度新しい靭帯として使う組織を切り取る必要もあります。

そのため、前十字靭帯再建手術後のリハビリでは、再発予防が非常に大切となります。

この記事では、前十字靭帯の再受傷リスクについて研究された論文を解説しています。

記事に目を通して、少しでも前十字靭帯を再び怪我してしまう可能性を少しでも軽減する役に立てば何よりです。

論文の概要

この論文はスウェーデンで行われた研究結果を報告しています。

研究対象となったのは、平均年齢21歳の前十字靭帯再建手術を受けた若いスポーツ選手です。

被験者数は159人で、そのうち18人が前十字靭帯を再受傷してしまいました。

この再受傷した選手と、しなかった選手を比較して、”再受傷の原因となるリスク”を調べたのが、この研究の主な目的です。

前十字靭帯の再受傷リスク

前十字靭帯を再受傷してしまうリスク要因として比較されたのは以下の3点です。

  1. 競技復帰までの期間
  2. 筋機能の左右差
  3. 大腿四頭筋筋力の左右差

これらのリスク要因を前十字靭帯を再受傷した選手としなかった選手で比べています。

競技復帰までの期間

それぞれのグループを比較して、顕著な結果が見られたのは競技復帰までの期間です。

前十字靭帯の再建手術を受けてから9ヶ月以内に競技復帰をした場合、再受傷リスクは約7倍も増加することが報告されています。

この”競技復帰”というのは、競技に合わせた練習ではなく、実際の試合のことを意味しています。

リハビリの段階に合わせて競技復帰に向けた練習をすることは問題ありませんが、試合に復帰するのは9ヶ月以上待つほうが安全のようです。

7倍という数字は非常に大きな差がありますので、特別な理由がない限りは、競技復帰を焦らないほうが良いでしょう。

筋機能の左右差

筋機能の差はホップテストなど、実際のジャンプ力を比較しています。

この筋機能の数字を比べてみても、両グループに明らかな差は見られませんでした。

これまで前十字靭帯の怪我から復帰する際には、左右のジャンプ力や片足ホップの差が90%以内を目指すべきと言われてきました。

この研究結果に限っては、左右差があってもなくても、前十字靭帯の再受傷リスクに差がなかったと報告されています。

大腿四頭筋筋力の左右差

大腿四頭筋の筋力は、Biodexという測定機器を使用して調べています。

これは椅子に座った状態で膝を曲げ伸ばしして、筋力を数値化することができる機器です。

大腿四頭筋筋力も筋機能と同様、左右差を90%以内まで改善することが重要とされてきました。

しかし今回の研究結果では、大腿四頭筋の筋力差が90%以内でも差があっても、前十字靭帯を再び怪我するリスクには影響しないという結果になりました。

まとめ

今回紹介した論文の結果では、前十字靭帯再建手術後9ヶ月以内に競技復帰してしまうと、再び前十字靭帯を怪我する確率が7倍に増えてしまうということが報告されています。

一方で、これまで重要視されてきた筋機能と大腿四頭筋筋力の左右差は、前十字靭帯の再受傷リスクとの関係性は見られませんでした。

これは今回の研究結果に限ったことかもしれませんし、被験者が若いアスリートだったことが原因かもしれません。

前十字靭帯を断裂した膝の機能を高めること自体は大切なことなので、左右差は気にしすぎなくても良いですが、十分に鍛えてから競技復帰するようにしましょう。

競技への復帰時期に関しては、特別な理由でもない限り、若いスポーツ選手は再建手術後9ヶ月以上待つことが重要に思えます。

長いリハビリ期間を無駄にしてしまわないように、十分な時間をかけてからの競技復帰を目指しましょう。

前十字靭帯損傷に関してより詳しく知りたい方は、こちらの記事が役に立ちます。

他の前十字靭帯に関する医学論文は、こちらのページにまとめてあります。
>> 前十字靭帯に関する論文紹介まとめ

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