2022.07.13
足底筋膜炎
足の内在筋トレーニングで足のバランス力や筋力が向上
執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)
ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。
今回紹介するのは、2022年6月に発表された”足の内在筋を鍛えると足部の機能が向上する”という論文です。
足の内在筋とは、下のイラストにあるような足の内部にある小さな筋肉のことです。
この筋肉をトレーニングすることで、このような効果があると報告されました。
- バランス能力向上
- 筋力向上
- 感覚・運動機能向上
- 日常動作を改善
- 足の姿勢不全改善
この記事では、論文によって発表された足の内在筋トレーニングの効果やトレーニング方法を学ぶことができます。
足首捻挫や足底筋膜炎のようなスポーツ障害だけでなく、扁平足のような姿勢不全にも効果があるので、足の痛みや機能不全でお悩みの方は、ぜひ足部の内在筋トレーニングを試してみてください。
論文の概要
この論文は、すでに発表されている論文の中から特に質の高いものを選んで結果をまとめる、メタアナリシスという方法で書かれています。
まず初めに、足の内在筋について書かれている542本の論文が集められました。
その中から今回の研究内容に合い、かつ質の高い13本の論文が今回の論文に使用されています。
この論文は非常に質の高い論文を1つにまとめた論文なので、エビデンスの強い信頼できる論文と言えます。
足部内在筋トレーニングの効果
集められた論文によって報告された足部内在筋のトレーニング効果を解説します。
足の姿勢不全を改善
13本のうち5本の論文で舟状骨ドロップテスト(Navicular drop test)の改善が見られています。
舟状骨ドロップテストとは、足の内側にある舟状骨が座っている状態と立っている状態でどれだけ高さが変わるか、を調べるテストです。
体重をかけたときに舟状骨が下がってしまうということは、足の内側アーチが落ちて扁平足になりやすいという指標になります。
足の内在筋トレーニングをすることによって、舟状骨が下がりにくくなることが報告されています。
また4本の論文では、FPI(Foot Posture Index)という足の姿勢検査でも、足の内在筋トレーニングを行なった人に改善が見られたようです。
バランス能力の向上
13本の論文中5本の論文が、足の内在筋トレーニングによるバランス能力の改善を報告しています。
バランス能力の中でも特に、片足立ちのような静止した状態のバランスではなく、動作を行なっている間のバランスである”動的バランス能力”の向上が見られたようです。
動的バランス能力の検査にはStar Excursion Balance Testというテストが使われました。
これは片足立ちの状態から逆の足を前後左右に動かすことで、バランス能力を調べるテストです。
足部内在筋のトレーニングをした人の方が、しなかった人よりも良い結果を出したようです。
足の筋力向上
足の内在筋トレーニングをした人の筋力が向上したという報告も、2本の論文から発表されています。
測定には、ダイナモメーターという筋力測定具が使われました。
トレーニングを行なったグループは、トレーニングをしていないグループに比べて足の指を地面に対して曲げる筋力が向上したそうです。
内在筋は非常に小さい筋肉ですが、トレーニングをすることでしっかりと鍛えることができます。
感覚と運動機能の向上
今回集められた論文の中には、足の内在筋トレーニングが足の運動機能と感覚機能も向上させたと報告しているものもありました。
運動機能とは”どれだけ上手く身体を動かすことができるか?”という能力です。
例えば足の指を大きく広げたり、閉じたり、親指だけを上にあげたりという動作は慣れていないと非常に難しいです。
足の内在筋を鍛えることでこのような動作をしやすくなり、”足部や指を動かしやすくなる”という効果が報告されています。
また、足の内在筋トレーニングによって、足部の感覚にも改善が見られています。
内在筋を鍛える前後で振動に対する足部の感覚を測定したところ、内在筋トレーニングをした後により強く振動を感じることができたと報告されています。
足の内在筋を鍛えることで、足部の筋肉が使いやすくなり、足の感覚機能も向上するようです。
日常動作の改善
今回集められた論文の中には、”足の痛み”や”日常動作での問題”のような、患者本人の自覚症状を調べているものもあります。
足の内在筋を鍛えることで痛みが減ったり、日常動作が改善するのか?という疑問を調べています。
興味深い結果ですが、内在筋トレーニングを行うことで日常動作が改善したという報告は見られたものの、足の痛みは変化しなかったようです。
足部内在筋のトレーニング方法
今回集められた論文で、足の内在筋トレーニングとして最も使用されたのはショートフットエクササイズ(Short Foot Exercise)でした。
これは足を地面につけた状態で、つま先を曲げずに母指球をかかとに向けて動かすという運動です。
ショートフットエクササイズは内在筋を鍛えるだけでなく、足底の内側アーチを高くする目的でも使われるエクササイズです。
他にもタオルギャザーのような足部内在筋のトレーニングはありますが、この論文ではショートフットエクササイズが最も効果的に内在筋を鍛えることができると勧めています。
足の内在筋トレーニングで改善が期待できる症状
足の内在筋を鍛えることで足部の機能が向上することが報告されていますが、具体的にどのような症状を改善することができるのかを紹介します。
扁平足
扁平足とは足の裏にある内側アーチが下がり、足の裏全体が地面についてしまう症状です。
扁平足になってしまう原因は非常に多く、舟状骨が下がる、外反母趾、足根管症候群、前十字靭帯損傷、膝蓋大腿疼痛症候群などが考えられます。
今回集められた論文の中で、3本の論文が足の内在筋トレーニングが扁平足改善に効果的であると報告しています。
足底筋膜炎
足底筋膜炎は、足の裏にある足底筋膜という組織の炎症による痛みです。
人によって痛みを感じる場所は違いますが、最も痛みが出やすい場所は地面に接しているかかとの部分です。
足の内在筋を鍛えることで、足底筋膜炎患者の痛み、日常動作、バランス能力に改善が見られたと報告されています。
足底筋膜炎にはマッサージやストレッチを行うことが多いですが、ぜひ内在筋のトレーニングも取り入れるようにしましょう。
慢性的な足首の不安定性
足首の捻挫を繰り返すことで、足関節は徐々にゆるく、不安定になってしまいます。
このような慢性的な足首の不安定性に対しても、足の内在筋トレーニングが効果的だと言われています。
ある論文によると、足部内在筋トレーニングを行なった人は、行わなかった人に比べて足首の動的バランス能力と感覚能力が改善したと発表されています。
足首の捻挫は内反捻挫と呼ばれる、足首を内側にひねる捻挫が非常に多いです。
このとき脛骨神経を痛めやすいのですが、この神経は足の内在筋や足底の感覚を管理しています。
そのため、脛骨神経の機能が低下すると、内在筋や足底の感覚が上手く働かなくなります。
足の内在筋トレーニングをリハビリとして行うことで内在筋の機能が回復し、バランス能力や足底の感覚が改善すると考えられています。
まとめ
足の内在筋をトレーニングすると、このような効果が期待できることが論文で報告されています。
- バランス能力向上
- 筋力向上
- 感覚・運動機能向上
- 日常動作を改善
- 足の姿勢不全改善
また、以下のような症状を改善する効果もあるようです。
- 扁平足
- 足底筋膜炎
- 慢性的な足首の不安定性
足の内在筋は普段意識することがないくらい小さな筋肉ですが、トレーニングによって非常に多くの効果を期待することができます。
足部や足首に不調が見られる人は、内在筋のトレーニングをリハビリに取り入れてみてはいかがでしょうか?
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