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Case Study 症状別事例

2022.08.11

理学療法

欧州サッカーでは過去18年間怪我の発生率が3%ずつ低下している

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。

今回紹介する論文は、過去18年間ヨーロッパのサッカークラブで起きた怪我の発生率について研究しています。

プロスポーツ選手は怪我をしないようにトレーニングやウォーミングアップを行いますが、実際に怪我の発生率が年々低下しているという研究結果が報告されています。

この論文は2021年に発表されました。

研究の対象となったのは、2001年から2018年シーズンの間にヨーロッパチャンピオンズリーグに出場したクラブの全選手。

18年間で発生した11,820例の怪我について調べられています。

論文の結論ですが、怪我の発生率は18年間で毎年約3%ずつ低下していることがわかりました。

より詳細な研究結果は以下のとおりです。

  • 練習時の怪我が減少
  • 試合時の怪我が減少
  • 靭帯の怪我が減少
  • 筋肉の怪我は変わらず
  • 再受傷率は低下
  • 欠場選手が減少

怪我の発生率が低下しているという結果は、障害予防を担うスポーツトレーナーにとって喜ばしいことです。

また、この研究結果は”怪我は予防することができる”と言い換えることができるかもしれません。

サッカーに限らず、より多くのスポーツで障害予防が広まり、怪我の発生率を減らすことができればいいですね。

論文の概要

今回の研究は、UEFAがサッカー中の怪我に関して集めた過去18年間のデータが使われています。

集められたデータはこの18年間でヨーロッパチャンピオンズリーグのグループステージに出場した49クラブの選手のものです。

チャンピオンズリーグはヨーロッパ最高峰の大会なので、欧州各国のリーグ上位クラブのトップ選手たちのデータが研究されています。

この期間中に発生した怪我は合計で11,820例でした。

怪我の発生率は、1000時間あたりで試合中が平均23.8件、練習中が平均3.4件となっていて、圧倒的に試合中の怪我が多いことがわかります。

このデータから、この18年間で怪我の発生率がどのように変化したかを調べています。

怪我の発生率は毎年低下している

冒頭でも書きましたが、結論から言うと怪我の発生率は減少傾向にあるようです。

この研究では怪我の発生率を以下のように細かく分類して調査しています。

  •  怪我の発生率
  •  再受傷率は低下
  •  練習と試合の欠場率

それでは研究結果の詳細を見てみましょう。

怪我の発生率

この18年間における怪我の発生率はこのような傾向が見られました。

  •  試合中と練習中の怪我は減少
  •  靭帯の怪我が減少
  •  筋肉の怪我は変わらず

怪我の発生率自体は、試合中の怪我も練習中の怪我もともに毎年3%ずつ低下していることがわかりました。

そして怪我の中でも靭帯の怪我に絞ってみると、試合中の怪我が4%ずつ、練習中の怪我が5%ずつ低下しています。

一方で筋肉系の怪我は、発生率が変わっていないようです。

怪我の再発率

同じ怪我の再発率については、このような傾向がありました。

  •  再発率は低下
  •  靭帯と筋肉両方とも低下

一度起きた怪我の再発率は毎年平均で5%ずつ低下しています。

これは練習中の怪我と試合中の怪我どちらにも当てはまるようです。

選手の欠場率

怪我の影響で練習や試合に参加できない選手の割合にも変化が見られました。

  •  練習と試合ともに選手の参加率が増加

練習に参加できる選手の割合は毎年0.7%増加し、試合に参加できる選手は毎年0.2%ずつ増加しているようです。

論文の考察

それでは今回の研究結果をもとに、より詳しく論文の中身を解説します。

特に重要なポイントはこの3点です。

  •  怪我の発生率の低下
  •  再受傷率の低下
  •  選手欠場率の減少

怪我の発生率の低下

この研究で1番の目的は、”過去18年で怪我の発生率は変わっているか?”を調べることです。

そして平均してみると、毎年怪我の発生率が減少傾向にあるということがわかりました。

この怪我の発生率が低下しているということが非常に重要な理由を説明します。

シーズン中の試合数増加

ヨーロッパサッカーでは、シーズン中の試合数が昔に比べて増加しています。

18年前に比べると選手への負担は増え、身体を休める時間が減っているということです。

その中で怪我の発生率が低下しているということは、各クラブ怪我をうまく予防できているということになります。

試合の強度も増加

現代サッカーでは試合数が増えるだけでなく、試合中の運動強度も増加しています。

以前のサッカーに比べると、試合中の選手はより早く、より長い距離を走っていることがわかっています。

選手の運動量が増えているにも関わらず、怪我の発生率を低下させているのは非常に素晴らしい成果です。

再受傷率の低下

怪我の発生率が低下しているだけでなく、で再受傷率も低下していることは大切なポイントです。

再受傷が起こらないということは、怪我をした後の再発予防ができていると言えます。

一度目の怪我よりも二度目の怪我の方が重症化しやすい傾向があるので、再発を防ぐことには大きな意味があります。

選手欠場率の減少

シーズン中に選手が怪我で練習や試合に参加できないと、試合で良い結果を残すことは難しいです。

より多くの選手が試合に出場できるからこそ、監督はより多くの戦術を使って戦うことができます。

怪我で欠場しなければいけない選手の数を減らすことは、直接的にクラブの戦力を上げることに繋がります。

怪我は予防することができる

今回の研究はこれまで集めたデータを解析したものなので、具体的に何をすれば怪我の発生率を減らすことができるのか?ということはわかりません。

しかし近年のスポーツ医療では、怪我を早く治すことも大切ですが、いかに怪我を防ぐかという予防の大切さが注目されています。

その中で、シーズン中の試合数が増えて選手の負担が増加しているにも関わらず、怪我の発生率が低下しているということは、スポーツトレーナーが上手に障害を予防できているとも考えられます。

怪我を予防するためのトレーニングは目で見える効果がわかりにくいですが、少なくともヨーロッパーサッカーのトップレベルでは、予防効果が現れていると考えられます。

まとめ

  • 練習時の怪我が減少
  • 試合時の怪我が減少
  • 靭帯の怪我が減少
  • 筋肉の怪我は変わらず
  • 再受傷率は低下
  • 欠場選手が減少

今回の研究では、ヨーロッパのサッカークラブで怪我の発生率が減少していることがわかりました。

障害予防トレーニングは地味で効果を実感しにくいですが、客観的な数字を見ると確実な効果があります。

ぜひ怪我をしにくい身体作りをして、怪我なくシーズンを過ごせるクラブと選手を作り上げてください。

参考文献
Ekstrand J, Spreco A, Bengtsson H, Bahr R. Injury rates decreased in men’s professional football: an 18-year prospective cohort study of almost 12 000 injuries sustained during 1.8 million hours of play. Br J Sports Med. 2021 Oct;55(19):1084-1091. doi: 10.1136/bjsports-2020-103159. Epub 2021 Feb 5. PMID: 33547038; PMCID: PMC8458074.

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