2022.07.25
半月板損傷
半月板を怪我したらすぐに手術するべき?リハビリを試した後に手術しても遅くない
執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)
ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。
今回紹介する論文は2022年6月に発表された”半月板が損傷したときに、手術とリハビリでは回復に違いがあるのか?”というものです。
この研究は、半月板を痛めたらすぐに手術したほうがいいのか?それとも最初は理学療法によるリハビリをしてみて、改善しなかったときに手術するのでもいいのか?ということを調べています。
結論ですが、”半月板損傷直後に手術をしても、最初にリハビリをしてみて改善しなかったときに手術をしても、2年後の状態は変わらない”という結果になりました。
手術を無理に急ぐ必要はないということなので、まずはリハビリだけで膝が回復するか試してみても良いかと思います。
論文の概要
この論文の題名を完璧に訳すと、”外傷性の半月板損傷をした若年患者に対する、内視鏡による半月板部分切除術と理学療法”になります。
筆者が調べているのは、半月板損傷に対してすぐに切除手術を行うのと、まずは手術をせずにリハビリするのとでは、膝の回復状況が違うのか?ということです。
この研究が行われた背景には、近年の半月板に対する手術件数の増加が影響しています。
医療が発達したおかげで、内視鏡を使った半月板の手術は簡易で効果的、しかも低いリスクで受けることができるようになりました。
しかし、半月板は一度切除してしまうと元に戻ることはありません。
もし半月板を切らなくてもいいのなら、まずはリハビリだけで改善するか試してみて、改善しなかったときに手術を行えばいいのでは?という考えがあるようです。
実験の参加者
今回の実験には年齢が18歳から45歳、総勢100名の半月板損傷患者が参加しました。
このうち49名は半月板手術を受けるグループ、残りの51名は理学療法を受けるグループに分けられました。
理学療法グループは最低3ヶ月間のリハビリを受け、リハビリがうまくいかなかった21名が半月板の手術を後から受けています。
それぞれのグループをまとめると、以下のようになります。
半月板手術グループ:49名
理学療法グループ
リハビリのみ:30名
リハビリ後手術:21名
半月板損傷からの回復状況
膝の状態確認には、IKDC knee scoreという評価方法が使われました。
IKDC knee scoreとは、「膝に痛みを感じるか?」「階段の登り下りはできるか?」というような膝の機能に関する質問に、患者が答えるタイプのテストです。
このテストを実験開始時から、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年、そして2年後に行い、膝がどれだけ回復したか評価しています。
下のグラフが今回の研究結果です。
赤が半月板手術グループ、青が理学療法グループのIKDC knee scoreの平均値の推移を表しています。
グラフを見ると、最初の6ヶ月間まではそれぞれのグループによる差はほとんど見られません。
そして9ヶ月と1年後の数値では半月板手術グループの方が少し高い数値ですが、2年後にはほぼ同じ数値に戻っています。
論文の考察
この論文の研究結果から半月板を怪我した直後に手術を受けても、まずリハビリを試してみてから遅れて半月板切除手術を受けても、2年後の膝の回復状態は変わらないということがわかりました。
この結果に対する肯定的な部分と否定的な部分を解説していきます。
半月板は手術をしなくても無事に回復することがある
今回の論文で最も大切な部分は、『手術を受けても受けなくても変わらないなら半月板は切除しない方がいいのでは?』ということです。
理学療法グループでは51名中21名の患者さんが遅れて手術を受けていますが、残りの30名はリハビリだけで手術を受けた人たちと同じくらい膝が回復しています。
半月板は一度切除すると二度と元の形に戻りません。
半月板切除手術を受けなくても問題なく膝が回復する可能性があるのであれば、まずは理学療法を試してみるのがいいと思います。
早く治したければ手術を考える
今回の論文が強調しているポイントは、手術を回避した患者さんの膝も”2年後”には手術を受けた膝と同じ状態に回復する、ということです。
先程のIKDC knee scoreのグラフをもう一度確認すると、9ヶ月と1年後の数値には差があります。
これは、怪我をしてから9ヶ月時点ではは半月板を手術したグループの方が膝の状態が良い、ということになります。
半月板を怪我をしたのがプロスポーツ選手や学生アスリートの場合、1日でも早く競技復帰することが大切です。
半月板損傷から早く復帰することが重要な人にとっては、手術を受けた方がいい可能性もあります。
手術を受けた方が早く回復する?
これは一つの解釈ですが、半月板の切除手術を受けたグループの方が膝が早く回復しているかもしれません。
先程のグラフをもう一度見返すと、赤色の半月板切除グループは9ヶ月後の数値と2年後の数値ではほとんど変化がありません。
具体的な数値は、9ヶ月後が75、1年後も75、そして2年後は78です。
対する理学療法グループの数値は、9ヶ月後が69、1年後も69、そして2年後には78になり手術グループに追いついています。
この推移は、見方によっては78が回復の限界点のようにも考えられます。
そのように考えた場合、半月板切除術を受けたグループは9ヶ月後にはほぼ完治している可能性があります。
あくまで一つの見解ですが、半月板切除術を受けた方が膝の治りが早いのかもしれません。
理学療法グループを区別していない
研究対象として比較されたのは”半月板手術グループ”と”理学療法グループ”ですが、実際は理学療法グループの中にもさらに2つのグループが存在します。
それは、”理学療法だけのグループ”と”理学療法を試したけど遅れて手術を受けたグループ”です。
理学療法グループ51名のうち30名はリハビリのみで膝が治りましたが、21名の患者は遅れて半月板切除手術を受けています。
このリハビリ組と遅れて手術組が”理学療法グループ”として一括りにされているのは、論文の信頼性を少し低下させてしまいます。
どちらか片方のグループだけより良い状態まで回復した、というような可能性も考えられますので、100%信頼できるデータとは言えないかもしれません。
まとめ
今回の論文からは、このような内容を読み解くことができます。
- 半月板損傷直後に手術をしても、最初にリハビリをしてみて改善しなかったときに手術をしても、2年後の状態は変わらない
- 受傷後9ヶ月、1年時点では手術を受けた膝の方が状態は良い
- 半月板損傷後、9ヶ月時点で回復の限界に達する可能性がある
多くの膝をリハビリしてきた私の個人的な意見では、明らかに手術が必要なほど損傷していない場合は、まず理学療法のリハビリから始めるのが良いと思います。
半月板は一度切除すると自然に再生することはありません。
半月板が欠けている膝は、将来的に変形性膝関節症や骨挫傷(骨の打撲)になる可能性が増加します。
できるだけ半月板を残したまま膝の状態を改善できないか試してみてから、状況に応じて手術を受けることをおすすめします。
そのため今回の論文で報告された、長期的な視点では半月板の手術を遅らせることの影響が少ない、ということは非常に有益な情報でした。
半月板損傷の治療やリハビリについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参考ください。
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