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Case Study 症状別事例

2023.09.22

腰痛

新型コロナによるロックダウンが慢性腰痛に与える影響

執筆中尾 優作(理学療法士/プロスポーツトレーナー)

ヨーロッパの大学、大学院で理学療法を学ぶ。欧州サッカー、日本のB.LEAGUEでトレーナーとして活動したのち、地元神戸三宮にメディカルフィットネスジム【Lifelong】を設立。トップアスリートを始め、"病院で治らない痛み"に悩む人にワンランク上のリハビリを提供する。

今回紹介するのは2021年8月に発表された、ロックダウンが慢性腰痛に与える影響を調べた論文です。

Effects of COVID-19 lockdown on low back pain intensity in chronic low back pain patients: results of the multicenter CONFI-LOMB study

日本では未だに実施されたことがない感染拡大による都市のロックダウン

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、海外では多くの国々で行われています。

日本の緊急事態宣言よりも厳しい制限がかかり、基本的に自宅待機を強制されることになります。

そのようなロックダウン慢性腰痛に苦しむ人々へどのような影響を与えたのでしょうか?

論文の結論は以下の通りです。

  • 41%の人がロックダウン中に腰痛悪化
  • 29%の人が腰痛治療を増加
  • 日々の運動量が減少
  • 座っている時間が増加
  • 運動量低下腰痛悪化関連性あり
  • テレワーク腰痛悪化関連性あり
  • 中には腰痛が改善した人も

ロックダウンが起こることで運動機会が低下し、腰痛が悪化する原因となることが明らかになりました。

これは分かりやすい因果関係だと思いますが、実際に関係性を研究し、数字で発表した論文は珍しいです。

そして興味深かったのは、ロックダウンによって腰痛が改善した人がいたことです。

どのような理由でロックダウン中に腰痛が良くなるのでしょうか?

それでは論文の詳細を説明していきます。

論文の概要

今回の研究はフランスとスイスにある7つの病院から、ロックダウンを経験した360名の慢性腰痛患者が被験者として選ばれました。

対象となった患者さんにはアンケート、電子アンケート、電話という方法で質問状に対する回答をしてもらっています。

アンケート回答者の概要は以下のとおりです。

被験者の概要
  • 男性149人 : 女性211人
  • 平均年齢52歳 (19歳〜91歳)
  • 平均BMI 26.1
  • 230人(65%)は労働者
  • →うち63%はロックダウン中も仕事あり
  • →→うち54%はテレワーク

被験者は女性の方が多く平均年齢も52歳とやや高齢でした。

ロックダウン中にもかかわらず、継続して仕事ができたのは約半数で、そのまた半分はテレワークをしていたようです。(67人)

ロックダウンによる慢性腰痛悪化

被験者の中でロックダウンによって腰痛が悪化したと回答した人は41%もいました。

そして、ロックダウン前後で腰の痛みを1~100で表したとき、ロックダウン前は平均49.6でしたが、ロックダウン後には平均53.5増加していました。

腰痛の治療時間を増やしたという人も全体の29%に上ります。

これらの数字から、ロックダウンの影響で慢性腰痛は悪化する可能性が高く、治療にも今まで以上の時間と費用がかかることがわかります。

運動時間が減少し、座っている時間が増加

慢性腰痛患者のうち、ロックダウン中に運動量が減ったと回答した人は約30%もいます。

一方で、運動量が増えたと回答した人は14%未満しかいませんでした。

細かく見てみると、ロックダウン前1週間で4時間以上運動していた方は全体の32.1%もいましたが、ロックダウン中には26.8%に減っています。

週に2~4時間運動する人の割合も、33.5%から24.2%に減少し、1週間の運動時間が2時間未満の割合が34.4%から49%に大きく増加しました。

対照的に、1日の中で座っている時間は大きく増加しています。

1日7時間以上座っている人18.9%から31.7%と増加し、座っている時間が3時間未満の人は47.9%から27.7%と著しく減少しています。

これらの数字から、ロックダウンによって運動時間は減少し、座っている時間が増加するという影響が出ていることが把握できます。

コロナ渦でオンライントレーニングなどが提供されるようになりましたが、多くの腰痛患者にとって、自宅で運動するという習慣はまだ一般的ではないようです。

腰痛悪化に関連する要因

アンケート結果を統計学的に判断したとき、以下の項目と慢性腰痛悪化が関係していることがわかりました。

  • 運動量の減少
  • テレワーク
  • ロックダウンを”悪い経験”と感じる

1つずつ解説していきます。

運動量の減少と腰痛悪化

下の表は、”ロックダウンで腰痛が改善したか変わらなかった人悪化した人との比較”になります。

左側の”Decrease or unchanged of LBP”は腰痛が改善したか、変わらなかったグループ

右側の”Increase of LBP”は腰痛が悪化したグループとなっています。

中段にある”< 2 h/week”と書いてある列を見てください。

これは1週間の運動時間が2時間以下という意味になります。

腰痛が改善、もしくは変わらなかった人の中で、1週間の運動時間が2時間以下の人は87人いて、グループ全体の42.4%となります。

一方で腰痛が悪化した人の中で運動時間が2時間以下の人は83人、グループ内では58.5%にもなります。

同じように、1週間で4時間以上運動する人の割合をグループ間で比較してみると、31.2%と20.4%と大きく差があり、腰痛が悪化した人の運動時間が少ないことがわかります。

また、”運動時間が減った”と回答した人の割合も、それぞれ22.9%と40.8%という結果になっています。

これらの結果を分析すると、”ロックダウン中の運動時間が少ない、もしくは運動量が減少すると、腰痛が悪化する可能性が高くなる”という関係性が見られます。

テレワークと腰痛悪化

同じようにテレワークと腰痛悪化の関係性も明らかになりました。

腰痛が悪化しなかったグループでテレワークをしていた人は48.1%なのに対し、腰痛が悪化したグループでは65.1%の方がテレワークをしていました。

どうしても座っている時間が長くなると、腰に対して負担がかかってしまいます。

これは腰痛の悪化とテレワークの因果関係がはっきりと証明できるデータとなりました。

ロックダウンで腰痛が改善した人も

これはとても興味深い結果ですが、ロックダウンを”良い経験”と答えた人は腰痛が改善、もしくは変わらなかった人が多く、”悪い経験”と答えた人は腰痛が悪化している人が多かったです。

これは働き方に大きく影響されるアンケート結果となります。

上記でも紹介しましたが、ロックダウンによってテレワーク主体の仕事になってしまうと、慢性腰痛が悪化する可能性は増加してしまいます。

このため、テレワークで腰痛が悪化した人にとっては、ロックダウンは”悪い経験”となります。

しかし一方で、ロックダウン中に腰痛が改善する人もいます。

それは肉体労働など、普段身体を使った仕事をしている人たちです。

重いものを運び、扱う仕事はどうしても腰に大きな負担となってしまいます。

このような仕事をしている人たちが、ロックダウンの影響で自宅でのテレワークなどに移行した結果、腰への負担が減り腰痛が改善したというケースがあるようです。

研究結果に目を通してみると、腰痛が悪化した人の中でロックダウンを”良い経験”と答えたのは40.8%なのに対し、腰椎が悪化しなかった人では59.3%もあります。

逆に、ロックダウンを”悪い経験”と答えた人は、それぞれ26.5%と13.9%になっており、腰痛が悪化した人にとってロックダウンは良くない経験となることが多かったようです。

腰痛との関連性が見られなかったデータ

一方で、腰痛との関係がありそうですが、今回の研究では関連性が認められなかったデータは以下のとおりです。

  • 年齢
  • BMI
  • 座っている時間
  • 新型コロナウイルスへの感染

中でも興味深かったのは、1日で座っている時間の長さと腰痛悪化に関連性が見られなかったことです。

少し前の表で紹介しましたが、ロックダウンによって運動時間が減り、座っている時間は増加しました。

しかし今回の研究結果では、座っている時間が長いほど腰痛が悪化する、というような関係性は統計学上見られませんでした。

この結果から、腰痛の悪化を防ぐには、座っている時間を減らすということよりも、運動時間を増やすという考え方が大切だと言えます。

論文の考察

今回の論文にも、考慮しておかなければいけない点がいくつかあります。

被験者属性の偏り

まず初めに、今回参加された360名の被験者には少し偏りがあります。

男性に対して女性参加者の割合が全体の60%ほどあり、平均年齢も52歳と高齢です。

研究結果を判断するに当たって、この情報は頭に入れておくべき内容です。

アンケートは一度きり

データを集めるときに行われたアンケートですが、一度しか行われていません。

これによって回答結果に先入観が生まれてしまう可能性が考えられます。

例えば、“ロックダウン前とロックダウン中で腰痛はどうだったか?”と聞かれると、事実に限らず、「身体を動かす機会も減ったし、ロックダウン中の方が痛かったかな?」と考えてしまう方もいると思います。

これは“ロックダウンで身体を動かしていない”ことから、身体にも良くなかったのでは?、という先入観が生まれている可能性があります。

正確なデータを集めるためには、同じ条件で質問をする必要があります。

今回の研究の場合は、ロックダウン前に“腰の痛みを数字で表してください”と聞き、ロックダウン中にも全く同じ質問をするのが最適だと思われます。

この点には著者も触れていて、ロックダウンの影響を素早く調べることを優先し、正確性が欠けたと記載されています。

そして、ロックダウンと言うのは急に始まり、開始時期は直前にならないとわかりません。

そのため、“ロックダウン前”の情報を集めることは非常に困難だった、とも述べられていました。

まとめ

今回紹介した論文は、新型コロナウイルス感染防止のために行われたロックダウンが慢性腰痛に与える影響を調べた研究でした。

ロックダウンによって運動機会が減り、腰痛悪化の原因となることは想像しやすいことかと思いますが、実際に360人からデータを集めることで、その実態が数字として浮き彫りになりました。

中には、ロックダウンによって腰痛に改善が見られた人がいたことも、興味深い発見でした。

そして何より、運動が腰痛改善のため、いかに重要かという事実が示された研究だと思います。

日常生活にどのような変化があろうとも、日々の運動を継続することが腰痛の改善と予防には大切ですね。

腰痛にお悩みの方、腰痛をもう少し詳しく知りたい方は下記のページもご参考ください。

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